死んだ魚のような瞳が、ひどく印象的だった。

 

まるで自分を映す鏡のようで。

 

 

 

 

 

 

 

銀灰のモザイク 1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗殺を生業にして生きてきた。毎日、嫌というほど返り血を浴びて。

そんな鉄臭いものが少しでも目立たないようにと、常に黒い装束を身にまとって夜を駆け抜ける。

 

「・・・さぶっ、積もってるし」

 

 

 

空を見上げればその暗闇にチラチラと舞い降りる結晶に、思いを奔らせる。

昔話を少し、しよう。ほんの少しだけ、

 

 

 

 

 

 

遥か昔、人々は皆私たちのことを、背に担いだ大剣を軽々と操るその姿から「クレイモア」と呼んでいた。

そんな時代も過去のことで、現在クレイモアという存在を知るものは軍部でもそこまで多くはないだろう。

 

圧倒的な力を持つことは、時に虐げられる。 しかしそれと同時に、重宝がられる。

 

 

 

「血なまぐさい格好で雪だるまとか作ってたら引かれるかな」

 

 

 

現代、妖魔などという存在は絵本の中だけの存在だ。

しかしながら数百年前の妖魔が住みかう時代で半人半妖の私たちは、「半分は憎き妖魔」と虐げられ恐れられていた。

そんな時代ももう終わり、ただの末裔の端くれ。

 

 

 

 

「平凡が良かったんだけどな」

 

 

ただただ平凡を求めて、イシュヴァールの田舎でぼんやり生活を送っていた。

イシュヴァールの地は皆優しい人ばかりで、銀灰の髪の毛と瞳を持つ私を何も言わずに受け入れてくれた。

 

 

 

「スカーの気持ちもわからなくもないんだけど、指名手配されてるのに、アホだな」

 

 

 

アメストリスが急に力をつけ始めたというのは噂で知っていた。

隣国であるから、自然と国境付近で紛争が耐えないことも。

 

 

 

 

それからのことは、あまり思い出したくない。 まだ蓋をしていたい。

 

とりあえず軍の狗になったことだけは確かだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人に戻る方法を探しているうちにたどりついたのは、不老不死と謳われる賢者の石。

 

 

 

延々と生き続けることを望み、皆が賢者の石を求めているこの時代に、

私は人に戻り死ぬことを求めて、賢者の石を辿っている。

 

 

 

 

その手がかりが、軍部にあるというのなら、喜んで狗になろうと。

そう思ったのにも関わらず、彼らが求めてきたのは裏の舞台。表には決して出さなかった。

軍人にもなれず、ただの人殺しのまま。

それでも少しでも資料が手に入るならと、何年も言われるがままに暗殺をしてきた。

しかし、何年経っても図書館にすら入れない。

 

 

 

 

 

「正式に入隊させて下さい」と、大総統へ頭を下げた。

 

私は軍部の裏からではなく、表から志願することを望んだのだ。

しかし大総統はそれをあっさりと許可した代わりに、セントラルから東へ、飛ばしてしまった。

 

 

 

表沙汰にしたくない事件の暗殺を要求してきた彼らはあっさりと、私を左遷し使い捨てた。

 

 

 

 

 

 

「東邦司令部の、マスタング大佐。か」

 

明日から私は暗殺という課業から手を引けるというのに、少しも気持ちは晴れない。

理由もわからず殺し続けてきた人々の感触が、いまだ手に残る。

 

 

 

「う、遅れる」

 

 

街の時計を見遣ればあと三十分もない、夜行列車にのらなければ明日は初日から遅刻だろう。

シャワーを浴びる暇もないので、自室へ駆け込み適当に服を着替える。

ちらちらと時計を気にしながら、誤魔化すように鉄臭い体に香水を侍らせ少ない荷物を引っつかむ。

 

 

 

「お邪魔しました、さよなら」

 

 

 

この言葉がこの家には一番似合うだろう。

アメストリスにやってきてから住み続けた居心地の悪い家に一言挨拶をして、雪の舞う夜に駆け出した。

あと五分。 時計を見るために捲った袖をさっと戻して駅を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駅に到着した時にはあと2分、余裕だなと笑ってホームへ駆けていると汽車の前に軍服姿の男。

寒くて目が霞んでいるのかいまいち誰かわからなかったけれど、近寄れば一番会いたかった顔があった。

 

 

 

「ヒューズ、どうしたのこんな時間に」

 

「お前さんが黙って去るらしいから、出向いてやったまでさ」

「あ、寂しいの?」

「いや、全く」

「ああそーかい。で?」

「で?とは何だ、で?とは。 来てやったのに」

 

 

 

 

 

 

 

ジリリリリリリリリリリリとホームに出発を知らせる鈴が鳴り響く。

 

 

 

 

まさかとは思うが、乗り遅れないようドアに足をかけて戸を掌で握ると「もっと女らしくなれな」とわしゃわしゃと髪を撫でられた。

 

確かにこれじゃ無賃乗車の少年か何かだ。

 

 

 

 

 

「お前、ロイの所なんだろ?」

 

「ロイ? マスタング大佐?」

「ああ、あいつ俺のハニーだからよろしく」

 

「はいはい、全くヒューズには敵わないね。元気出たよ。」

「それはよかっ」

「ねえ」

 

 

数秒の沈黙、

 

 

「言ってあるの?」

 

私が暗殺とはいえ、未だに人を殺し続けていること。

 

 

「いや、必要を感じなかったんでな」

 

言える時になったら、自分で言え。

 

 

 

「優しいね、いつも。まいっちゃうよ本当に」

「なに、お前とアイツはどっか放っとけねんだよな。似てんの。」

 

 

どんな人だ、ロイ・マスタング。

 

 

 

 

 

「お前ら、笑ってるようで笑えてないからな、この不器用な生き物め。」

「・・・」

 

「そんな意外そうな顔すんなよ、気づいてるよ昔から。俺のように素直に生きてみろってんだ。」

 

ニカっと笑うそれは彼独特のもので、それは私の安心材料。

 

「はいはい、ありがとう」

 

 

 

 

 

ゆっくりと動き始めた列車、少しずつヒューズとの距離が広がっていく。

 

 

不覚にも泣きそうになった、親を見失った子供みたいに。

そんな自分に笑ってしまうと、ヒューズが「また会えるさ」と笑って言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

私が半ば強制的にイシュヴァールから連れてこられ裏で暗殺をし続けてきたあの時から、

ヒューズだけは何故か面倒を見てくれた。

 

もちろん機密事項のひとつであったの存在を外部に漏らしはしなかったみたいだけれど。

 

 

 

 

 

 

そんなヒューズと離れるということが、こんなにも寂しいと感じるなんて。

笑っちゃう。

 

 

 

 

 

だってまた会える、今度は軍人として、彼がいつも自慢している奥さんにも会えるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「またな」

 

 

 

「またね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、セントラルを去った。

 

 

 

 

アトガキ

こっちのほうがいいじゃん、絶対。