銀灰の艶ある髪の毛が、すれ違いざまロイを繋ぎとめる。
まぁ、軍服の上着のボタンに絡まっただけという粋の無い理由。
だが、それだけで彼の記憶を動揺させるには十分だった。
至近距離で瞳があったその瞬間、走馬灯のように記憶が蘇る、よみがえる、一面の赤、紅、怯えた人々の顔。
息を呑んだロイに驚いた顔をした彼女は、少しして笑った。
ああ又だ、また笑っていない。
死んだ魚のような瞳が、ひどく印象的だった。
まるで自分を映す鏡のようで。

クレイモア、そう確かに彼は言った。
私は突然のことに少し驚いて瞠目してしまったけれど、案外気づくのも早かったなという結論に落ち着いた。
「何ですかそれ」
今更はぐらかしても無駄だということは百も承知で、一応そう言ってみた。
ロイは一生懸命記憶を辿っているのだろうか、そんな顔をしている。いっそ鈍器で殴ってやろうかと、物騒な選択肢が頭を過ぎった。
忘れていればいいのに、そう思う。
「銀灰の髪、瞳・・・」
「これはカラーリングです、瞳はコンタクトです。」
カラーリングは嘘だけれど、コンタクトは本当だ。
こんなこともあろうかと、妖力を抑えて瞳の色は元の漆黒に戻していた。
なんて臆病なんだと笑われるかもしれないけれど、そうでもしないと人の中で暮らすということが怖くて、怖くて仕方なかった。
私は今、上手く笑って話ができているだろうか。
「そうか。 少し、休んできてはどうかい?」
左手にファイルを抱えたままの私はそう言うロイの意図がつかめずに、ただただ微笑む。
上手く笑えているかはわからないけれど、そうするしか思いつかずに。
その「そうか。」という言葉は納得したのだろうか?
「そうですね。五分ほど、休憩してきます。」
そう告げると瞬時に踵を返した。
心臓が嫌にドクドクと波打って、口から出てきてしまいそうだ。
だからかもしれない、気づかなかった。
彼が着いてきていることに。
「」
呼ばれて、やっと彼の存在に気づいた私は動揺しすぎていたらしい。
誰も居ない休憩室で、目を見開いたままの私は「動揺しています」と言っているようなものだろう。
扉にもたれているロイは、優越感だろうか、笑っていた。
「大佐も趣味が悪いですね。」
「ヒューズは、知っているのか?」
苦笑だけを返すあたり、趣味が悪いことをしたのは肯定なのだろう。
そしてヒューズも知っているのかと聞く。
「知ってますよ。まあ、それが何か的な反応されましたけど。」
「全くだ。それが何か問題でもあるのか?」
さすがとでもいうのだろうか、ヒューズの親友というだけはあるなと思った。
こんな人間と接していると、たまに『人間に戻る』と躍起になっている自分が馬鹿みたいに思えることがある。
このままでもいいのではないかと、馬鹿な発想さえ過ぎる。
「先に言っておきますけど、軍事機密ですから。」
何故彼女がこんなにも優遇された地位を渡されたのか、やっと繋がった。
彼女自身が軍事機密、天然記念物のようなものなのだろう。
まあ天然記念物などといえば怒られそうだけれど。
「口外しないでくださいね。した際の保証は致しかねますよ。」
身分とかそんな問題ではなく、生死問題。
きっと彼が口外してなにかに発展すれば、彼は大総統に首を切られるだろう。
「それはおっかないな。たまったもんじゃない。」
「私の首も飛びそうなんで、心中したくなければ大人しくしておいて下さい。」
何だか強張っていた自分の感情がどうでもよくなってくる。
どうしてこんな生温い環境に送り込んだのだろう、キングブラッドレイは。
そうだ、どうして?
突如眉間に皺を寄せたに、ロイも何かに気がついたらしい。
「左遷にしては生温いな。」
「ですよね。」
何か、裏がありそうだという意見で一致した。
とりあえずここで考えても埒があかないし、解決もしないだろうから。
「野望があるなら、私に深く関わらないほうがいいですよ。」
部屋を去る際彼女は背中を向けたまま、そう言った。
「何、簡単には死なないさ。」
諦めの悪そうなそんな返事に、思わず振り返りそして笑う。
あまり巻き込みたくはないけれど、そんなことを言ったところですんなりと引き下がってくれる相手ではなさそうだ。
「そう願ってます。」
今度こそは退室して、執務室へと向かう。
そんな道中、また再び大総統の考えについて思案する。
彼は一体どういうつもりなのだろうか。
ほどなくして執務室へたどり着く。扉を開けた瞬間、ハボックが「お前、殺されるぞ」と言った。
ガウンッガウンッガウンッガウンッガウン――――
その直後に轟く銃撃。私の頬の横、首の横、肩の、腰の、脚のすぐ脇、弾丸がぷしゅうと音を立てている。
「ひぎゃーーーーーーーーーー!!!!」
女らしさの欠片もない悲鳴を上げたのは仕方ない。
しかも現実を把握するのに少々手間取ってしまった。
「いや、気づくの遅せーだろ。」
発砲者、リザ・ホークアイ。
彼女は敵ではない、はずだ。
目の前で不適に笑う彼女に、ひきつった笑みを返すしかない。
「サボったわね。」
サボると発砲されるらしい、・・・おっかない。
「はい、 ごめんなさ 」
ズガガガガガガン、
ガウンッガウンッガウン、
再び響いた轟音に、謝罪は最後までたどりつかなかった。
しかしその弾丸は私の元にはない。それは私の背後にいる、後からやってきた人物に向けられたもの。
「ちゅ、中尉・・・すまない。」
「仕事をしてください。」
中尉は大佐にも平然と発砲するらしい、おっかない、本当におっかない。
思わず笑ってしまった私に、「今日は全員残業無しで、の歓迎会ですからね。」とホークアイ。
なんだか、本当に生温い環境に来てしまった気がした。
泣いてしまいたいくらいに、生温かかった。
アトガキ
次が楽しみ。どんな酒癖にしよう。