誰だよ、こいつに酒飲ませようなんて言った奴。

 

 

…俺か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

残業を残さず全員で仕事を追え向かった先は、居酒屋のような所。

竹が入り口に植えてあり、和の雰囲気が漂うそこは中尉が月にニ、三度食事をしに来るらしい。

店の主だろうか、「奥空けといたぜ」なんて言って、個室に通してもらった。

 

 

「私、ジンジャエールで。」

 

皆がドリンクを決めていくなか、がそう店員に言う。

途端、一斉にブーイングが巻き起こった。

 

「何、お前酒飲めねーのかよ。」

 

ハボックを筆頭に、やんややんやと攻め立てられるは『飲めないわけじゃないけど、』と小声。

一定量を越えると、翌日の記憶がない。

そして周りが翌日から急に余所余所しくなるのだ。

 

「飲めるならのみましょうよ、せっかくなんでね。」

 

とフュリーが優しく悪の道へ先導する。

それに乗るようにファルマンがアルコールについて精密に語りだしたが、誰も聞いていない。

 

 

「大佐のおごりなんで高いもん頼んじまえ。」

 

とブレダが割高なものばかりを指差す。

横に座るハボックも、一緒になってこれだこれなどと言っている。

 

「じゃ、とりあえずギネススタウトで。」

「・・・お前実は酒豪だろ、いきなり黒いくか黒。なら俺も黒ビールで。」

 

便乗してくるハボックに「酒豪じゃないです、好きなだけです。」というと、斜め向かいに座る中尉が一言。

 

 

「酒豪って、自分で強いとは言わないらしいわよ。」

「そういう中尉はどうなんですか?」

 

「普通よね?」

 

何だ、一瞬周りが引きつった笑みを浮かべたような気がする。

発砲でもしだすのだろうか…。

 

 

 

「大佐は本当に酔いませんよね。」

 

話題がロイにまで及んできて、彼はそうだなと一言。

するとブレダがとんでもないことを言い出した。

 

 

 

「大佐との飲み比べに俺らが賭けるってのはどうだ?」

「お、いいねぇ。で、何を賭けるんだ?」

 

 

 

 

「明日の仕事。」

 

何だかそれを皮切りに、皆が真剣に賭けを始めた。

私は強いなんて一言も言っていないのに。というか、覚えていないから強いか弱いかさえ曖昧だ。

 

 

 

 

しばらくしてアルコールが運ばれてきて、「に乾杯」というコールが飲み比べのスタートとなった。

 

 

「ところではいくつなの?」

「423歳」

嘘ではない、寧ろ生きてきた時間を思えば本当のことだ。

しかしここでは冗談としかとられない。

「23か、わっけーな。」

 

お前らより長生きしてるよなんて口が裂けても言えない。

そんなの複雑な表情を見てロイが噴出す。

・・・そういえば知っているんだったな、と悠長にビールを喉に流し込み「次いきまーす」と新たにアルコールを注文する。

 

「その髪は染めてんのか?」

「あー、うん。元は髪も瞳も真っ黒かな、大佐と同じような感じ。」

 

妖魔の身を喰らったから色素が抜け落ちて銀灰になった。

とは、やはり言えるわけもなく。

それを聞いたロイがまた薄く笑っていた。

 

「その孫を見守る爺さんみたいな微笑やめてくれませんか。」

 

が失礼極まりないことを言うと、ハボックは飲んでいたギネスを見事に噴出す。

目の前に座っていたホークアイが心底鬱陶しそうな表情でテーブルを拭く姿が妙に面白くても笑う。

 

「爺さん、じいさん…」

 

相変わらず腹をかかえて笑うハボックに、必死に笑いを堪えているファルマンとフュリー。

ブレダは諦めたのかハボック同様腹をかかえて床を連打。

 

「失礼だな、私は30だよ。」

「・・・童顔ですね。」

 

可哀想な目で露骨にみてくるに、またしてもハボックとブレダは笑いの渦へ飲み込まれていく。

調子がいいのか乗ってきた。

 

「三十路の童顔、視線が合い妊娠させる。」

 

暴走する、腹をかかえて笑い転げる男共。

中尉も大佐から顔をそらして薄く笑っているが、その態度が一番馬鹿にしているようにも映る。

 

 

 

「ところではどこに住んでるの?」

 

特に何の意図もなく中尉は聞いただけだが、はぴたりと動きを止める。

そして思い出したように、ふるふると震えだす。

 

「これから、探します。」

「お前、今までどこ居たんだよ。仮眠室とか言うなよ。」

「か、みんしつ。」

 

どうして誰も気づいてやれなかったのかと、各々自分を責めてしまう。

 

「で、どれくらいのところに住むつもりなんだ?」

 

 

「三畳一間の風呂トイレなしアパート。」

 

 

彼女のあまりにもな回答に、面々は首を傾ける。

そんなに給料、安かったっけと。

 

 

 

 

「私、給料出ないんですよね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

「だから、給料はもらえないんです。」

 

「いやいや、中佐だろ?」

 

 

 

 

 

 

「まぁ、だからバイトでもして安い家探します。」

 

軍部の中佐がアルバイト、なんだか世の中なんでもありになるのではないかと思いそうな現状。

そして自分達が出世をしていっても、そんな状況に陥る可能性があるというこの国家に少なからず不安を覚えた。

 

 

 

 

 

「うちに来る?」

 

しばらく考えるようにしていた中尉が、ねえと呼びかけてきて言った言葉。

それに皆が口々に「いいんじゃないのか」と言うので、そういう方向で話が進んでいる。

とりあえず飲み干したアルコールの追加を頼んで数秒考え込む。

 

 

 

 

 

人間でない自分が、そこには居る。

彼女はそれを知らない。

 

半人半妖、そんな人間の本性を彼女達は知らないのだから。

 

 

 

 

そんな事態に陥る事があるとは思わないけれど、無いとも限らない。

妖力開放をしなければいけない場面に出くわしたとしたなら、私はそうするだろうから。

 

 

 

ロイは目の前に座るの表情の僅かな変化を感じ取った。

そして彼女の考えていることも何となく読める。

 

助け舟を出そうかとも思った。「うちに来ればいい」と。

しかし、そこまでのものを彼女に感じているかといえば、否。

女性好きとして有名ではあったけれど、家に入れた女は居ないというのが現実だった。

 

 

 

「ありがとうございます。本当にいいんですか?」とが言う。

彼女も彼女で決心を決めたようだった。

 

 

 

 

 

 

追加できたアルコールをくいっと飲み干した彼女は、お酒に強いからではなく決心からだろう。

そしてまた「次は、テキーラで」と物騒なことを言う。

 

「すみません、テキーラは置いてないんですよ。」

 

と申し訳なさそうにいう店員に「こちらこそごめんなさい、なら・・・ブラッティマリーで。」と告げた。

酔いが回ってきているということだろうか、トマトとは…。

ブラッティマリーはトマトのカクテル。胃に優しいことから薬用として用いられることもあったという。

 

 

 

 

 

すると突然中尉が立ち上がる。

 

 

 

 

「踊ります」

 

 

は硬直。周りは、ああ始まったかという雰囲気。

 

 

 

 

 

「ひゃっほうひゃっほう、うふーん、あはーん。」

 

 

意味のわからぬ奇怪な踊りを踊り始め、うふーんとか言っている。

それは間違いなく中尉、リザ・ホークアイ。

彼女の酔った姿に皆が遠い目をしていたのはこういうことだったのか…。

 

 

「案外お酒弱いんですね中尉。」

「末恐ろしい姿だろ。」

「インパクトありすぎですね。」

 

横に座るハボックとひそひそ会話をかわす。

そんなにつかつかと近寄ってくるホークアイ。

愛用のエンフィールドNo2の安全装置をかちゃりと外し、こちらへ銃口を向ける。

 

 

 

訂正、こっちじゃない、ハボックだ。

 

 

 

「俺か?」

「みたいですね。」

 

 

銃口を向けたまま、中尉は泣き真似をしてこう言った。

 

「ハボック、この浮気者っ、といちゃいちゃしやがって」

 

ズガンズガンズガン…。

 

よかった、標的私じゃなくて。横目でハボックの人型をとったような弾痕を目にしてそう思う。

 

「付き合ってんの?」

「んなわきゃねーだろ。」

「なっ、ハボックの裏切り者。成敗します、」

 

ガウンッガウンッガウン。

あ、頬っぺた掠ってる。痛そう、可哀想に。

なんだか非現実的な光景に、撃ってる中尉が正しいような気さえしてきた。

 

 

とりあえず、他の面々の所に寄ろうとしたのだが。

 

 

 

「来るな、頼むから来るな。」

 

ブレダを筆頭に、完全に拒否される。

きっと弾丸が自分の所にくるとわかっているのだろう。

しかし一人きりでここにいるのも、どうも危険な気がした。

 

ハボックはゆさゆさと揺らされていたのだけれど、エスカレートしてガクガクと揺すられているうちにその場に倒れた。

 

 

 

 

 

「わ、わたし用事があるので先に帰りますねー。」

 

逃げる気か、と全員がこちらに悲痛な視線を送ってくる。

逃げる気だ、と全員に視線を返す。

 

その中でも一人、冷静さを保っていたロイが私を阻んだ。

彼だけはずっと冷静だったところを見ると、被害にあわない人間なのだろう。一応上司だし、大佐なのだから。

 

「ほう、用事とは?」

「デートですデート。」

 

「「「「「彼氏居たのか?」」」」」

 

失礼極まりない発言に、持っていたとしたら発砲していたかもしれない。

 

「バイトです。」

「同伴かよ…。」

「お前、軍人がキャバクラとかやってんじゃねーよ。悲しいだろこっちが。」

 

「だ、だ、だ、だって、給料ないんだもん。」

 

悲しい現実をつきつけられて泣きそうだった。

しかも夜だけはたらいて、結構な給料が貰えるとなるとクラブしかない。

 

「それに情報収集がかなりできると思って。私、無能だから、それくらいしか出来ないし。」

「何、はキャバ嬢やってるの?」

 

そこにずいっと会話に混ざろうとする中尉は、踊るのに疲れたのかはたまた飽きたのか。

満面の笑みを浮かべたホークアイ。

 

 

 

ものすごく嫌な予感がした。

 

 

 

 

 

 

「みんなでを指名しにいきましょ、ね、ほらほら。」

 

酔っ払いほどたちの悪いものはない。

本気でそう思ったけれど、彼女の愛銃の餌食になるのは勘弁だったので…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っい、ちょっ、お前、逃げんのかよっ」

 

 

 

 

ものの見事な逃げっぷりで、瞬時に逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「探すわよ、」

「え、ちょ、おい」

「私のを他の男に指名させたりするもんですか、」

「わ、わかったからこっちに向けんな銃口。」

「行きますよ大佐。ほら、早く、」

「レディーが沢山居る場所にわざわざ連れて行ってもらえるとは、嬉しい限りだな。」

「賛同してる…、フュリーちょっと助けてくれよ。って何お前ら逃げてんだよ。」

「逃がしません。」

 

 

ズガガガガガガン

 

「ぎゃーーーーーー。」

 

 

 

 

 

は知らない。まさか本気で追ってこられるだなんて。

 

 

 

 

 

 

アトガキ

中尉、暴走中。