煌びやかな店内を颯爽と歩く。

 

すれ違う人々から感嘆と溜息が漏れるのが心地よいと思う私は、女だからだろう。

化粧をまともにしたことがなかった私は、三日で開花した。

 

Club.ARGENTのナンバー2 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらロイさん、お久しぶり。」

「きゃー、ロイさんっ。」

「ロイーーー、やーん久しぶり。」

 

店がどっと沸いた。

私は、テンションがた落ちした。

 

「あら、今日はお仲間も連れていらしたの?」

「やーん、かっこいい方が沢山っ」

 

店はロイご一行の登場で湧いていく一方で、ロイもそんな状態にご満悦といった表情だった。

鏡越しに彼らの動向をうかがいながら、指名客の接待は怠らない。

 

「何だか騒がしくなってしまいましたね、ごめんなさい。」

 

そう言って、そっと手を重ねて上目遣いに首を傾ける。

大概がこれだけで落ちると最近自覚した、女の武器はフル活用。

鈍感なフリをしたほうが、女はモテるのだ。

 

 

 

 

ふとホークアイを見れば、酔いが覚めたような顔をしていた。

冷静に周りを観察しているが、そこらへんの女よりも遥かに綺麗な彼女に女達は嫉妬する。

これはバレるのも時間の問題だなと、溜息をついた。

 

 

栗色のウィッグに、同色のコンタクトをして変装はしているのだけれど。

女好きのロイにかかれば一発で見破られるだろう。

それに名前は「」のままだ。

 

 

 

 

 

 

「指名したいんだが、」

 

おや、と思う。彼は誰も今まで指名したことがなかったのだろう、この店で。

その言葉で店内の女が一層湧いた。

皆が自分かと期待しているその表情を鏡越しに面白そうに見ていると、一人の男と視線が合った。

 

フュリー。

 

私は必死に人差し指を口にあてるが、彼は「ばれてますよもう」と口を動かす。

 

 

 

「そうだな…、」

 

つか、つか、と足音がだんだんと近くなってくるそれに、嫌な汗が大量に出る。

 

 

「そこのお嬢さんにしようかな、どうだい店長?」

「彼女は数日前に入ってきたばかりですが、うちのナンバー2でして。おすすめですよ。」

 

すすめんな、馬鹿店長。

内心毒づくけれど、心の声が外に漏れることはない。

 

 

 

 

「お嬢さん、どうかその麗しい瞳をこちらに向けてはいただけませんか?」

 

無理です大佐。

その言葉をどれだけ言いたいだろう、けれどぐっと飲み込んだ。

 

「おや、なんと美しいお方だろう。お名前は?」

 

知ってるだろあんた。

自分との葛藤だ。ここでつらつらと本心をぶちまければ、ここでの情報収集も賃金(というか未来の家賃)も水の泡。

 

 

 

、と申します。ロイさん、噂はかねがねお聞きしておりますわ。」

「それはそれは。」

「どうぞよろしくおねがいしますね、ほどほどに。」

 

彼にしか聞こえない声音で、最後の一言を告げる。

華やかな二人に嫉妬心を通り越して、羨望の眼差しを向ける女達。

 

 

 

 

 

 

「どうぞ、お連れの方もおかけになって?」

 

接客中の客に「ごちそうさまでした、」とグラスを傾け、また今度お話しましょうねと微笑む。

アフターサービスも忘れないところは抜けていないというか、数日で上り詰めただけはあるらしい。

彼女の接待っぷりを観察しながら「意外と向いてるんじゃないのか」とハボックが呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・で、」

 

本気で来たのかお前ら、と一喝したかったけれどここでそれはない。

それに女の子が三人付いてくれているから、変なことも言えない。

 

「何飲まれますか?」

 

微笑みの内側に秘めた「こんのやろー」という視線を理解できるのはロイとホークアイ、そしてハボック。

面白そうに笑いながら煙草に手を出した彼に、隣に座っていたエレナはライターを取る手が震えていた。

うまくつけられない彼女に視線で合図をして、スマートな仕草ではハボックの煙草に火をつける。

 

「ごめんなさいジャンさん。ほらエレナ、大丈夫よ。」

「ご、ごめんなさい。緊張して。」

 

ロイの席に付くということ自体が極度の緊張をもたらすのだと後に聞いた。

彼は容姿端麗だし、軍部の大佐という地位も持っている。

 

それだけで素敵だというのに、女性にとても優しいとあって異様にもてる。

 

 

 

 

「ドンペリでも開けるか」

 

おまけに景気もいいときた、これでもてない方がおかしいのかもしれない。

 

 

 

「じゃあ、初めての記念日にピンクがいいな?」

 

負けてなんていられない、そう妙な対抗意識が湧いたのは女の子にではなくロイに対して。

女の武器を最大限に出して、おねだりする。

 

すると一瞬ロイが怯んだ。面白いぐらい露骨に。

普段の私とのギャップに面食らったのだろうきっと。

 

 

 

「仕方ないな、なら今日から私の恋人にならないかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

ちゅどーーーーーんとでも言うのだろうか。

聞き耳を立てていたのだろう、さすがに女の子たちが黙っていなかった。

 

ちょっとあんた、と詰め寄られる

 

 

 

 

振り返れば、満面の笑みを浮かべるロイ・マスタング。

 

ハボックが掌を転がすジェスチャーをした。

 

 

 

 

『お前、今転がってるぞ』ということだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなことしたら世の中の女性が皆さん悲しみますよロイさん。だってほらこんなにも女の子たちがあなたのこと好きなんですもの、ね?」

 

 

 

は店の女達をも味方につけることに成功した。

 

 

 

 

 

ロイはどうしたものかと心中作戦を練っていると、ボーイがやってくる。

ちらりと時計をみやれば、ワンセット終了の時間だった。

タイムオーバーだなとここは潔く引き下がる、

 

 

 

 

 

 

そんなロイではなかった。

 

 

 

 

 

 

「アフター、おねがいしようかな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

は、この世のありとあらゆる全てのものを恨んでも恨みきれなかった。

負けたなと肩をすくめて「いいですよ」と言い残してバックヤードに消えていく。

時には諦めも肝心だとヒューズに言われた言葉を頭に反芻した。

 

店長に「高額バック期待してます。」と言い残して店を出る。

着替えるのも面倒だったので、上にコートを羽織って深夜の街に彼らの姿を探すけれども、ご一行は見つからない。

あんな団体だからすぐに目に付くはずなのに、そう思うがそんな団体はどこにも無かった。

 

 

 

 

 

「大佐?」

 

振り返ると、白い息を吐きながら手招きをしてくるロイ。

そこに彼らの姿はなかった。ロイ一人がそこに佇んでいて、黒いコートに身を包んだ彼と漆黒の髪が白い吐息に栄えていた。

 

「大佐じゃない、ロイだろう?アフターだ。」

「ロイさん。」

「ロイ、」

「了解ですからそんなに凄まないでくださいって。」

 

側に寄って、彼の頭にかかる粉雪を手で掬い取る。

急いで出てきたとはいっても、こんな季節に待てば冷え切ってしまうのだろう。

まだ少し熱の残った自分の掌で彼の頬に触る。

 

「冷たいですね。すみません。」

 

ところで皆さんは?と聞けば、明日も出勤だからと帰ったという。

そういえば、明日の休みはロイとだけだったなと今朝みたシフト表をみて思い出す。

 

「で、何の用ですか?」

「飲みにいかないか?」

 

いいですよ、と返そうとした返事は彼自身に飲み込まれた。

別に、キスをされたとかそういうわけではない。

ただ彼の纏うコートにすっぽりと丸め込まれただけだけれど、突然のことに驚いて、

 

 

不覚ながら、 少し心臓が早まった。

 

 

 

 

「大佐、ちょっと酔ってたりします?」

「ロイ。」

「我儘ですね、子供じゃないんですからもう。」

「ロイ、」

「何度も言われなくてもわかってます。」

「ロイ 」

 

 

にこにこと微笑むロイは引き下がりそうにもなかった。

仕方ないなと呟きながら、消えそうな声で一度だけ呼んであげる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キスしていいかな。

 

そんな言葉が降ってきて、瞬時に身構えてしまう。

しかし隣にあったはずの熱が、ぱさりと消えた。

 

 

 

唇に感触はない、代わりにあったのは、

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロイっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ白な雪に埋もれた、彼。

 

肩で息をして、少し顔が赤い。

 

 

 

 

 

「大丈夫ですかっ、大佐ー…」

 

 

 

ぐいっと引っ張られ、ぽすんと雪に落ちる自分の体。

彼の腕に体の半分は包まれているから、そこまで冷たくはないけれど、それでも冷たいことは冷たい。

 

 

 

 

 

 

 

「熱だ。」

「見ればわかります。」

 

 

 

 

「ひとつだけ、我儘言っていいかい?」

「常識の範囲内なら。」

「病人にそっけないな君は。」

 

そう言って笑う彼の顔、そのなかにある瞳の奥に気づく。

 

 

 

 

死んだ魚のような瞳が、ひどく印象的だった。

まるで自分を映す鏡のようで。

 

 

 

似ている、そう思った。

ヒューズの言っていた言葉を理解した。

 

 

 

 

「なんですか?我儘って、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「側に居てくれないかな。」

 

 

笑える話だが、少し気弱になってしまってね。

病気とは恐ろしいものだなと、笑って私にそう言った。

 

 

 

その瞳は一片も笑っていない。

 

 

 

 

 

 

 

「今日だけですよ、」

 

 

は白い世界から先に立ち上がり、彼に手を差し伸べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロイは、暗闇の中で差し伸べられた救いの手みたいだ、そう思いながら意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

アトガキ

やっと大佐でばってきましたな、本格的に。