許せない、許せない、そう呟きながら執務室へ向かうはエドワード。

 

の居なくなった今、それを止める理由はないなと判断した弟、アルフォンス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

盛大な足音が気配を誇示してこちらへやってくるのを感じた。

 

を追って東邦司令部までやってきたロイは、ただならぬ雰囲気に何かあったなということだけは察知したが中身がわからない。

その中心がだということくらいしか情報がなかった。

 

 

バタンとノックもなしに扉が開いて、そこには鋼の錬金術師エドワード・エルリック。

そしてその少し後ろに走って追いつこうとしているアルフォンス。

 

 

 

 

「てめーら、っざけんなよ」

 

怒りを露わに、エドはその場に居る全員に怒鳴り散らす。

その怒りに疑問の残る顔をしたのはロイだけで、ほかは心当たりがあるらしい。

 

 

 

 

「何があった?」

「何じゃねーよ、お前のせいだよ大佐。」

 

大佐に向かってお前とは、と忠告が普段なら入るであろうけれど。

そんな雰囲気は微塵もなかった、というよりもそんな余地を与える剣幕ではない。

 

 

 

「俺は中尉のことも好きだけど、それでもあんたらのしたことだけは許せない」

 

睨みつけるのはハボックに対して。

しかしその背後の全てに怒りをぶちまける。

 

 

 

「どういうことだ?」

「大佐も大佐だぜ、責任とれねーことするんじゃねーよ。」

「意味がわからないが、どういうことだね?」

 

眉間に皺を集めてそう伺うロイに、ホークアイがひとつ前へ出る。

それを制したのはハボックで、どうやら彼が説明をしてくれるというらしい。

 

 

「簡単に言うと、が大佐を寝取ったんじゃないかという事ですかね」

 

 

 

 

 

 

 

今度こそ、今日一番の盛大な溜息が聞こえた。

ロイは頭をかかえて、お前らなんてことしてくれたんだと睨みつけた。

 

 

 

 

 

「ひとつ先に言っておくが、彼女から私に近づいてきたことは一度もない。」

 

それはそれで問題なのではとアルは鎧の内側で苦笑するけれど、彼の表情は誰もわからない。

まるで大佐から近づいていったといっているようなものだ。

 

「あと、お前らが俺と寝てくれるだとでも思ってるのか本気で?」

「寝て欲しいんですか?」

 

きっぱりとホークアイがそう言いのけるけれど、彼はそれには答えない。

そんなロイに特に何かを返そうともしない中尉。

それをきっかけに、沈黙が生まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はね、特別なんだ」

 

そんな沈黙を破ったのは意外にも、アルフォンス。

その言葉の意図がわかるのは、エドとロイだろう。

 

「詳しくは言えないし、僕もまだよくわからないんだけど、それでも彼女はいつだって特別な存在として扱われるんだ。」

 

それが何だといわんばかりの疑問符を浮かべるハボックに、エドが未だ睨みをきかせる。

エドにとって家族という存在はアルフォンスだけであったけれど、は特別な存在だった。

 

はいつだって悲しい立場しか与えられない。」

「でも決して泣かない、だけど笑わないんだ。」

 

アルの言葉にエドが視線を合わせながらそう付け加える。

 

 

 

 

 

 

「何も知らないくせに、勝手なことばっか言ってんなよ」

 

「あいつがどんな思いしながら、ここまで生きてきたか知ってんのかよ」

 

 

 

 

 

 

 

「あいつ、死ぬために生きてんだよ」

 

謎かけのような言葉を理解できたのは、ロイとアルだけだった。

他は眉間に皺を寄せて首を少しかたむける。

それを見たエドは、ハボックに向かって指を突きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

「少尉は中尉のこと好きなだけだろ、八つ当たりも大概にしろ」

「中尉も大佐なんかより少尉のほうが何百倍も優しいっていい加減気づけ」

「大佐は女遊びも大概にしろ、まじで泣かせたら殺すからな」

 

 

 

一気に捲くし立てた言葉に、ブレダがたまらず噴出した。

 

 

 

「大人は子供を見くびりすぎてたんじゃないんですかね?」

「意外と鋭かったんだね、兄さん。ボクずっと兄さんは気づいてないんじゃないかと思ってたのに。」

 

ブレダとアルはその場の空気などかまわずとりあえず思ったことをそのまま口にした。

しかし、巻き込まれたホークアイとハボックとロイにしてはいい迷惑だ。

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待ちなさい、ひとつ言わせてもらうんだけど」

 

諦めたようにホークアイは空を見上げてそう言った。

それを見たロイは、おやと思う。

とうとう言うのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が大佐と付き合ってるだなんてバカな事誰が言い出したのかしらないけど、そんなこと過去に一度もないわよ」

 

 

固まるのはロイとホークアイ以外。

ぽかんと口をあけて、当事者を見つめる。

 

 

「面倒だから否定しないし、そうしてる限り他から言い寄られたりもしないみたいだから放置していたけど」

 

 

 

おいおいおいおいおいおいおい、何度おいと言ってもいい足りない。

たまらずハボックが「はあ?てことは俺は想像だけでを罵倒して追いやったってことか?」と頭を抱えてしゃがみこんだ。

 

 

アルはそんな状態を客観的に見物しているけれど、きっと今中尉は嘘をついている。

何だか複雑な心境だなと内心笑うしかない。

どうしてこうもみんな不器用なんだろうと、そうすることで誰かを守るとき誰かが犠牲になるなんて。

 

 

ロイは、想像だにしない発言にホークアイに視線を向けているけれど、彼女がこちらを向くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

「あのー・・・、お取り込み中すみませんが、ちょっとそこの荷物とらせてください。」

 

そして予想だにしない声を聞いた全員が一斉にそちらを振り返る。

 

 

「・・・なに?何かしました?私の顔そんなにおかしいですか?」

 

振り返られるのも一斉だし、大半が瞠目しているというのは軽くホラーだ。

まるで化け物や腫れ物を見るようなそれに、正直戸惑った。

 

 

 

すまんっ、俺の勘違いであんな暴言…」

「勘違い?あー、別にそんなこといちいち気にしてたら生きていけませんってば、私女王様ですよ、そこらへん強いです。」

 

高級クラブのナンバー2をなめるんじゃありませんとは笑った。

気にしないでくださいといいながら笑うのその表情をみて、笑えなかったロイ。

 

どうして、そんな瞳で笑うんだろう。

いっそ泣いてしまえばいいのに、いつだかもそう思った。

 

 

 

「あと中尉、私別に大佐取ろうとか全く考えていませんから。」

「・・・無駄に終わったかしら。大佐、どうします?」

 

意味のわからない説明をうけては視線だけをロイへ向ける。

 

「中尉は私と関係なんてなかったと言ったんだよ、さっきね。」

「そうなんですか?まあどっちでもいいですけど、私本当になんでもありませんから。」

 

本当にどっちでもよさそうに言うに面食らったような表情。

この現状をどうお開きにするかということしか考えることをしない

 

実際は結構動揺していたのだけれど、そんなこと億尾にも出さない。

 

 

それだけの年月は生きてきたつもりだ。

 

 

 

 

 

 

 

「話の腰折って非常に申し訳ないんだけど、明日一日出張してきます。セントラルに召集されたので。」

 

 

もうこの話、おわりにしない?とそう暗に意味をこめたつもりだった。

こんな不毛な話をして解決の糸口がみつかりそうにもないし、嘘だらけの現状にどれが真実か正直わからなかった。

 

 

 

 

 

「それならここでとりあえず完結ということで、皆仕事に戻るがいい。」

 

ロイもそれに賛同してくれたようで、そう誘導する発言をしてくれた。

ひとつ頭を下げてみると、困ったような笑みを返されるだけ。

そんなロイはひとつ何かを決心したかのように、息を大きく吸った。

 

 

 

 

 

「ホークアイ中尉、ちょっといいか?」

「はい」

 

待っていましたと言わんばかりの苦笑を返されたのは意外で、ロイは肩をすくめた。

そんなやりとりを見た面々は、終わりの時かなと見て見ぬふりをする。

 

 

 

廊下へと連れ立った二人に、扉が閉まった瞬間部屋が話題を集中する。

 

そんな中に近寄ってくるのはハボック。

は振り返り笑みを送る、そんな申し訳なさそうな顔しないでよと。

 

 

 

「わり。大人げなさすぎた。」

「いいよ別に、好きなんでしょ?」

「まぁな、報われないけど。」

 

奇遇だね、とは笑う。

 

 

 

「私、一生報われないんだ」

 

 

どうしてハボックにそんなことを言ってしまったのかわからない。

等価交換だろうか、彼の自白に対する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廊下へ連れ出された中尉、何もいわないロイ。

どこへ向かっているのかもわからないけれど、次第にそれがどこへ向かっているのかわかる。

 

「大佐も残酷なことしますね。」

 

それは二人の、始まりの場所。

 

 

「すまない。」

「わかってます。」

「私は守られていただけだったみたいだ、君に。」

 

イシュヴァールの傷を持ち続けるロイに気づけるのは近くにいたリザ。

彼の腹心としては、放置することもできずにいた。

そして自分もその傷をもつ人間として傷を舐めあってきてしまった。

 

 

「同じ傷をもつ人間は沢山いたんだ。」

 

ゆっくりと、ひとつひとつ説明するよと彼は言った。

だから彼女はひとつまたひとつ、丁寧に頷いて聞いてあげた。

 

 

「だけど、私たちの傷など比ではない傷を持つ人間を見つけてしまった。」

 

彼の言う人間とはきっとのことだろう。

それに気づいたのは彼だけのようだったし、リザもまた気づけずにいた。

の性格的に自分から言うような人間にも思えない。

 

 

「私はね、私よりも傷ついた人間を見て『自分はここまでじゃない、よかった』と思ってしまったんだ。」

 

始めは、そう付け加える。

彼の掌は固く握られていて、それは何かを決意した時の彼の癖だということは自分が一番知っていた。

もう戻れるとも思わないし、戻りたいとも何故か思わなかった。

 

 

「傷の舐めあいをまたするのですか?」

「いや、それが命一杯怒鳴られたんだよ。泣き叫ばれたとでも言うのかな、涙は見れなかったけど。」

 

何を怒鳴られたというのだろうか。

 

 

 

「私たちは、これから一歩進まなければならないのかもしれない。」

 

「傷を誇示して舐めあうのではなく、それを自覚して更に前へ進めと彼女は言ったんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私たちが奪った命は戻ってこないんだよ、中尉。」

 

わかってはいたことだけれど、改めて言葉にされると金槌で頭を殴打されたような感覚だった。

 

 

 

「間違っていたと悩み戸惑うのはもう終わりだ。それは彼らの命に失礼だと怒られた。」

 

 

 

 

 

彼の心を攫われたという被害者の立場にいるのにもかかわらず、救われた気がしたといったら馬鹿にされるだろうか。

そんな言葉、今までだれが口にしたことがあるだろう。

心の隅で皆わかっているけれど、気づかないふりをしてきたその重箱の隅を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大佐。」

「なんだね。」

「なんだか鈍器で殴られた気分です。」

「だろう、私も衝撃的だったよ。でも、なんだか心地よかった。」

 

 

 

君もだろう?

 

そう笑う彼は、もう私の入り込む隙はないけれど晴れ晴れとした気分だった。

まだまだ傷がいえることはないけれど、本当の意味で前へ進む気力がわいた。

 

 

 

 

「傷は舐めあうものじゃなかったんですね。」

「最善の方法はその傷に弾丸をぶち込んで現実に気づくということだったみたいだ。」

「ぶち込んでいいですか?」

「・・・」

「冗談ですよ」

 

 

 

 

 

 

それでは振り向いてくれそうなんですか?と去り行く彼の背中に問いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「振り向く振り向かない以前の問題なんだ、私は彼女の生きる意味を取り除かなければならない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼女は死ぬ方法を探すために、必死に生きている。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もし、その方法が見つかったとしたなら、きっと彼女は死んでしまうよ。

 

 

たくさんの疑問が残った応答だったけれど、投げ飛ばされてそれを受けとめた瞬間にさらさらと掌から零れ落ちたような、

そんな喪失感のある悲しい現実だということだけはわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「守りましょうね。」

 

 

リザの意外な返答に驚き振り返るロイ、どこか吹っ切れたような彼女に笑みを返す。

 

 

「私は私の部下を全力で守る。だから君はを守ってやってくれ。私に出来ない部分も、」

 

 

 

 

 

 

悲しいけれど、きっとあるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君にしかできないことが、きっとあるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今まで私を守ってくれて、ありがとう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アトガキ

なんだこの詰め込みっぷり。急展開。