やっ、と手を挙げやってきた人物に私は思わず飛びついた。

 

まるで子供だななんて笑ってしまいそうだったけれど、それ以上に彼の元を離れた数日が不安で仕方なかったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

、何かあっただろ。」

「聞くなドアホ。」

 

ヒューズの側から片時も離れないは彼の執務室の彼の椅子の真横で動く気配がない。

近すぎる、そう言ってやりたかったけれど。彼女の微妙な表情を見てそんな気が削げた。

 

 

「ま、一日三度の日課のマスタングへの電話のおかげで内容は残念ながら知ってるんだよな。」

「面白そうですごいむかつく。」

「面白いさ、そんなに動揺するもそんなに消沈するも初めて見た。」

「見物料、高いわよ。」

 

 

明日の任務と言ってこちらに来たのは少し偽りで、深夜帯の暗殺任務。

もう暗殺からは脚を洗えたと思っていたので正直いい気分はしていないけれど、そうも言わせてもらえない。

お目付け役がヒューズだったことは不幸中の幸いかもしれなかった。

 

 

 

「軍服、初めて見たけどやっぱりこっちのが俺は好きだわ。」

 

そういって全身真っ黒に身をつつんだ私を不釣合いな笑みでそう言うヒューズ。

これから暗殺にいくというのに、暢気なものだなとは笑った。

まぁいくのはだから、暢気なのも仕方ないけれどそれは彼なりのリラックスのさせ方なのだろうから。

 

「太股出てるからでしょ、ロイかあんたはっ」

 

ぴたり、とヒューズが静止した。

急に真剣な眼差しを向ける彼に不安を隠せない。

 

 

 

 

「時間の問題かこりゃ。」

「何が。」

「なあ、俺のお願い聞いてくれないか?」

「だから何、急に。」

 

真剣な眼差しをするヒューズをどこか好きになれない自分がいた。

何故か不安が過ぎる、そんなことはないと思うのだけれど彼だって中佐なのだから。

それなりの力は持っている、並みの相手にやられるほど馬鹿ではないはずだ。

 

 

 

 

「マスタング、よろしくな。」

「嫁にやる親父みたいな言い方しないでくれる。」

 

薄く笑いながらそう返すけれど、未だ彼の表情は真剣そのものだった。

諦めたように私は笑うのをやめて、彼の腕に手を差し出す。

今まで何度この腕に救われてきただろう、何度抱きしめてもらってきたのだろう。

 

 

「あと、何があっても見放すなあいつらを。」

「そんな約束できな、」

「頼む。」

 

どうしてそんな瞳で私を見るの、まるで死に行く人みたいじゃない。

彼の背後にどうしても屍が見えてしまう私は、どうしてこんなにも人の死に敏感になってしまったのだろう。

何人もの人が私より先にどんどんと死んでいったけれど、そんなの比ではない虚無感が私を支配した。

 

 

「わかった、守るよ。」

「お前は、守ることでとても強くなれるだろう。」

 

彼女の実力など既に承知であったけれど、彼女は言っていた。

これは私の本当の力の3%だと。

それならば彼女が本気を出した日には、国が滅びてしまうのではないかと聞けば「そんなことはしない」と笑って言った。

 

 

 

「だが、もっと周りに頼ったり信用したりすることを覚えたほうがいい。」

「何が言いたいの?」

 

 

 

 

 

俺は、もうここまでの人間だ。

彼はそう悲しそうに言った。

 

 

お前ならわかるだろう、自分の死の予感くらい嫌というほどしているんだ。

 

 

 

 

「俺の守ってきた奴らを、お前に託したいんだ。」

 

マスタング、エドワード、アルフォンス、ホークアイ、ハボック、ブレダ、ファルマン、フュリー、色々な名前が彼の口から呟かれる。

なんて悲しい響きをするのだろうと、私は顔を覆った。

 

同時に、絶対に死なせないと。そう誓う。

 

 

 

 

 

 

「時はまだあるよヒューズ。私には力がある。失わせはしないよ。」

 

ゆっくりとそう言った私の言葉に、彼は首を横に振っていた。

無理だよ。必然を捻じ曲げることなど、と笑って。

 

 

 

 

 

 

 

「エリシアに会いたかった。」

「今日お前、泊まりにこいよ。」

 

軍部の中佐として、お前を歓迎するよと彼は言う。

今まで民衆には隠されてきた存在から、少し地位をもらったということ。

それはあまり喜ばしいと思えたことは少なかったけれど、今日だけは素直に嬉しいと感じた。

 

 

 

 

「なら、さくっと三十分で戻るね。」

 

じゃ、また後で。

彼の頬に挨拶代わりのキスをして、私はその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第五研究所、そこは表面上はもう使われていない。

しかしああも厳重に警備をしていると、中になにかあると気づく人間もいるだろう。

その人間を始末しろと言われてやってきたのだけれど。

 

 

 

「私、必要だった?」

「いや、全く。」

「久しぶりだな。」

 

 

鎧の兄弟は私の姿をみて剣を下へと降ろす。

目の前には彼らの餌食となった侵入者、たまに居るのだ、踏み込まなければ生きながらえたというのに。

 

馬鹿だな。

 

 

 

いや、それも羨ましいと思う。

 

死ねるだなんて。

 

 

 

 

 

 

 

「死ぬ方法は、見つかったのか?」

「いや、全く。」

「試してみるか?」

 

こちらの答えなどきかずに、彼は私に剣を投げ飛ばす。

避けたつもりなどない。

 

だけど体は正直だ、その軌道を冷静に判断して最小限の動きで避けていた。

 

 

 

 

「ごめん、気持ちはついていかずにばくばくいってるんだけどやめてくれないかしら…」

「俺なんかじゃお前は殺せないよ、やはり。」

 

すまぬな、と彼は言う。

そこへ外に気配を感じた。一つ、いや二つだろう。

 

 

 

 

「今日はえらく賑やかじゃないか。」

「私、必要ないでしょう?ちょっと散歩してくるよ。」

 

何のためにここへ来たのか、いまいちわからなかったけれど正直どうでもいい。

「それが何?」という態度をとってはきたけれど、胸がはちきれそうだったあの場では。

東邦司令部に戻るのが、億劫だ。

 

 

 

半分人間というのも厄介だなぁとあざ笑う、前方の気配にはもちろん気づいているけれど。

 

 

 

「何笑ってるの?」

「久しぶりねエンヴィー。」

 

ホムンクルス相手に、ここまで平然としているものはあまりいないだろう。

けれど彼らは私を殺さないし、殺せるかもどうか。

生かして、人間である半分を利用し掌で転がしているのだろう。人質などとったりして。

 

 

「東邦司令部はどう?」

「最悪よ、私なにもしてないのに男女のごたごたのど真ん中。」

「・・・普通に可哀想だねそれ。ま、いんじゃないたまにはそんな人間のなかに浸るってのもさ、」

 

首を潜めて曖昧に返事を濁した私にエンヴィーも同じようにする。

するとぱっと立ち上がり、つかつかと私を通り越してどこかへ向かっていく。

 

 

 

「どこ行くの?」

「鋼のおちびさんだよ、倒しちゃったみたいだあいつらを。」

 

するとぼんやりと湧いて出たグラトニーが「食べていい?」と聞くけれど彼は首を横に振る。

私はエドということを聞いて少し動揺してしまったけれど、恐らく彼もぎりぎりまで泳がされる人員なのだろう。

うすうす感じていた。

 

 

「ばいばいグラトニー、食べちゃだめだよ。もし食べたら、私グラトニーをこま切れにしてミディアムレアで食べちゃうよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

、普通に怯えてるからやめてあげて」

「あ、ごめんごめん」

 

がたがたと震えるグラトニー、そしてエンヴィーに「殺すなよ」と念を押して冷たい笑みを向けた。

それが精一杯の虚勢だろう、動揺しているだなんてばれちゃいけないんだ。

いつだって強くないと、私は強くないと。

 

 

 

 

 

 

去っていく彼らの背中を見送り、私はその場に腰をおろした。

最初に思い浮かぶその顔に首を振り、「置いといて、」と両手を横に持っていく。

それでも考えてしまうのはロイのことで、だいぶ頭がやられてしまったみたいだと嘆く。

 

 

東邦司令部でのことは彼らも大人だから解決しているとは思うけれど、少し中尉とは気まずいなと思う。

特になにをしたわけではない、だが情というものからかもしれないけれどロイに少なからず興味を抱いてしまった。

なにもかも、ぶちまけて楽になりたいなんて本当はいけないんだけれど私はそうしてしまいたいと願っているように感じるのだ。

 

 

 

 

 

 

「ばかだなー…、もっと冷静に生きないと」

 

そう笑って何も無いただただ暗いだけの空間に言葉を漏らす。

それとほぼ同時、エドの悲鳴が響いた。

 

 

苦しそうなそれに私は神経を集中して気配を読む。

出て行きたいのは山々だけれど、それはできない。

 

彼らには「殺すな」と約束しただけだった、痛めつけるなとは言っていない。

 

 

 

 

 

「怒らせたねエンヴィー、ちょっと痛い目みてもらおうか」

 

エドの意識が途切れたと思われる気配を感じて、私はその場へと脚をすすめた。

気配を消そうともしないの足音にエンヴィーとグラトニーは顔をひきつらせる。

 

 

 

 

は無表情でエンヴィーを突き刺した。

その剣先は全く見えなかったし、抜刀した瞬間さえ捉えられない。

 

うめくエンヴィーに、は冷たく笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、ごめんね当たったみたい。」

 

 

避けれると思ってたのに。

 

笑って彼らにそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アトガキ

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