誰を頼って生きていけばいいのかな、ねぇヒューズ。

 

笑えないよ、上手く笑えない。

 

だけど私、強くなったと思うんだ。あなたに守るものをもらったから。

 

 

 

 

だから、何に変えても私、守っていくね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、何用だ?珍しいなお前が私を呼び出すなど。」

 

すっかり不貞腐れたように床に座り込んだへ、イズミは笑いながら手を差し出した。

どうもこの女はつかみどころがないと思う。

出会った頃からずっと、本当にずっとずっと笑っているイメージしかないから。

 

 

「せんせ、ちゃんと生きててよ。」

 

じとっとした目を向けてくるは、いって二十代半ば程にしか見えないのに、

実際彼女はずっと長い間生きているという。

 

 

「また誰か死んだのかい?」

 

そんな言葉には何も答えなかった。

ただただ、不貞腐れたように床に円を描き続けている。

しかしその瞳を伺う限り、悩み立ち止まっているようには見えなかった。

だから疑問なのだ。

 

 

 

 

何故彼女がわざわざ呼びつけたのか。

 

 

 

 

 

「エドとアルがそっちに行ってるらしいから、早く帰ったほうがいいよ。」

「なら呼ぶな馬鹿たれ。」

 

噂はイズミの住む南部ダブリスまでも及んでいるようで、エドとアルという言葉を耳にした彼女は少し眉間に皺を寄せていた。

しかしに詳しく聞こうという気がないのは彼女らしいとは思う。

私の口からよりも、本人達の口から聞くべきことだろう。

 

人体錬成を行ったことがあるとずっと昔に彼女の口から聞いたことがある。

実際そんな現場を見たことはないけれど、それが禁忌であることくらいは承知だ。

そしてそれがとてつもない苦痛だということ「等価交換」として自分が持っていってしまわれること。

イズミの中身がないこと、アルは空っぽなこと、エドの腕と脚。

これくらいは知っている。

 

 

 

 

 

 

「私、今中佐なんだよ。笑っちゃうね。」

「軍の狗は嫌いだと前から言っているだろう。まぁお前の場合別だが、」

「イズミ、好き。」

「気持ち悪いな。」

 

あははと笑うに、イズミは苦笑を返す。

彼女の近況を聞けば大きく変化したらしい、裏社会から軍部へ正式に入ったようだ。

 

 

しかしいきなり佐官クラスとは、この国はどうかしているのではないのかと言ってやると本人も「だよね」と呆れたように言っていた。

イズミ自身、彼女の実力をみたことはないけれど。

 

それでも庶務において死ぬほど不器用であることくらいは想像できる。

茶も淹れれないだろうに、どう仕事をしているんだろうと思ったが怖くて聞けずにいた。

まぁ、知らなくていい情報だろうと判断したまでだけれど。

 

 

 

 

「なんだか私、異様に非番が多いんだけど。」

 

そりゃそうだろうと喉まできた言葉を押し込めた。

役にたたないものはひっこめておく、イズミでもそうするだろうし。

 

「で、今日も非番なのか?」

「いや、あまりの役立たずっぷりにお昼ごはんのお使い頼まれて買出しにきてるだけ。」

 

 

 

 

時計を見た。

間違っているのは時計ではない、きっと目の前の女だろう。

 

 

 

 

 

イズミが一時滞在するために取った部屋の時計は既に三時を指している。

 

 

 

 

 

 

 

 

、軍の人間がどうなろうと構わないが。」

 

「なに?」

 

 

 

 

 

「餓死しても知らんぞ。」

 

「うん。わざと。」

 

 

だって仕事しに戻りたくないもんと、モラルに反する堕落した言葉が彼女の口からぽろりぽろりと漏れてくる。

イズミは頭を軽くおさえて、彼女の上司も部下も大変だなとそう思う。

彼女は天然などではない、全てが計算のうちだろうということくらいもうわかっている。

不器用さにおいては完全なる天然にも見えるけれど、あれもわざとな気がするのはイズミだけだろうか。

 

 

 

 

「そろそろ戻らないとだな、ああやだやだ。」

「あんたの同僚に心底同情するよ。」

「うわー、ひどいな。」

 

 

 

 

 

でも、ちょっと元気出た。 ありがとう。

 

 

 

 

ぼそりと呟いた言葉は消えてしまいそうだったけれど、その前にイズミの耳に届く。

自分はどうやらそのためだけに呼ばれたらしい。

はぁ、とひとつ溜息を吐くけれど、嫌な気分ではない。

 

人間に頼らないが、こうして気まぐれのように自分を必要としてくれる瞬間が嬉しかった。

 

 

 

 

 

「そうか。」

 

なら私はそろそろダブリスに戻るよ。と続けてイズミは立ち上がる。

もう帰るの?と少し寂しそうに言ったを振り返ると、少し雰囲気が変わったなと思う。

会った時にもそんな風に感じたけれど、どうやら間違いではなさそうだ。

 

 

 

 

、男でもできただろう?」

 

しばし何かを考えるようにして、は困ったように笑うだけだった。

肯定もしないが、否定もしない。

深く聞く気はしなかったけれど、意外にもは結局少しだけその口を開いた。

 

 

「男というか、似てるのかな。」

 

やんわりと微笑むを初めて見たイズミは僅かに瞠目してしまうけれど、すぐに目を細めて彼女の顔を見る。

いい傾向かもしれないな、とそう思いながら。

 

 

「ま、シグよりいい男なんざこの世にいないがな。」

 

ああ、惚気がはじまったとはあからさまに嫌な顔をして出口へと駆けて行く。

自分が呼んだくせに、勝手な女だなと思いつつもイズミは笑顔で手を振った。

彼女はいつも風のように突然やってきては、突然去っていってしまうから。

 

 

 

 

 

「またね、イズミ姐さん。」

「あんたのが年上だろう。」

 

 

 

いや、私のが若く見えるから。

イズミ老けてきたんじゃないの。

 

 

面白そうに笑いながらはそう言った。

既に逃げ足の準備は完璧らしい。

 

 

 

 

 

 

「っざけんなこの若作りっ」

 

彼女がデイリーユースの為だけにとった宿屋は、あっという間に破壊されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アトガキ

幕間ということで。