ただいま、と陽気に片手を挙げて部屋へ入ってきた彼女を待っていたのは、

 

おかえり、という言葉ではなく…

 

 

 

 

 

 

 

ズガンッズガンッ ズガガガガガン ――――

 

 

 

 

 

銃声と、弾丸。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たかだか買出しに一体どれだけかかってるっていうの」

 

カチャリと音をたてて愛銃を下へ降ろすリザには両手を挙げたままひきつった笑みを送る。

相変わらず容赦ないなぁと呟いた瞬間に安全装置を再び外される音が耳に入り「なんでもありません」と続けた。

 

「で、今日はどこへ行っていたの?」

 

銃を仕舞いながらもう片方の手でを立ち上がらせるリザにありがとうと御礼を言う。

最近少しだけ関係が変わった気がするのは私だけだろうか。

前にも増して容赦がないというか、遠慮がなくなったというか、よく言えば仲が深まったような気がするのだ。

 

 

「ちょっと友人をダブリスから呼び出して忘れていたから会いに。」

「お前、職務中云々より南からわざわざ呼んどいて忘れんなよ。」

 

ハボックが書類の山から顔を少しあげてすかさずつっこみをいれてくれる。

それを待っていましたといわんばかりの相槌で受け止めるだけれど。

 

 

 

「とりあえず、書類の整理整頓くらいできるわね?」

 

はぁと溜息をつきながら焔の大佐以上に遥かに無能な中佐へそう聞くのは中尉。

階級とか関係ないよなぁつくづく、と内心おもうけれどそれ以上にその階級並みの働きをしていない自分を思えば口が裂けても言えない。

 

「きっと。」

「何だその曖昧な答え。」

「え、だって嘘はついちゃいけないじゃない。」

 

・・・・・・できないこと前提なわけだな。ハボックはこれ以上口を挟むのをやめた。

所詮女に口で勝てるなんて毛頭思っていない。

 

 

「とりあえず大佐の机の上片付けておいてもらっていいかしら?」

「大佐は?」

 

 

誰も、何も言わない。

ようは逃亡中ということだろう。

 

 

「ちょっと訓練場で練習してくるから、休憩いただきます。」

「中尉まで逃げるんですか、」

「私は朝からずっと働いていたのだけれど、文句あるのさっきまでほっつき歩いてたさん。」

「ないです。全く、ないです。」

 

 

両手を挙げて降参のポーズをとると、ハボックやブレダ、それにファルマンやフュリーまで立ち上がってそれぞれ外勤や休憩へ向かうという。

どうやらに一言文句を言うために誰もここを動かず働いていたらしい。

まぁ結局彼女にお小言を述べたのは中尉だけだけれど、それが一番の御灸だということを皆わかっている。

 

 

 

「じゃ、帰ってくるまでに終わらせておいてね。」

 

中尉の一言を残して、一気に部屋は寂しさを帯びてゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんですかね、この書類の山」

 

サインしてあるものや、していないもの、手すらつけていないもの。

どうしてこうも職務怠慢なのだろうかとは腰に手を当てロイの机の上の山をにらみつける。

もちろん自分の職務怠慢は完全に棚に上げて。

 

「私物まで巻き込んで置いてるし、なんだこのラブレター」

 

それはロイの書きかけのラブレターらしきもの。

しかも複数人へ、沢山の愛を綴っている、心底呆れる。

とりあえず声に出して読んでやろう。

 

 

「嗚呼フローディン、どうして貴女はそんなに美しいのか、私は毎日貴女のことをかんがえるだけでむねがたかなッテ」

 

読んでるこっちが恥ずかしいわと一人つっこみをいれてそれを床へ投げつける。

そして再びいそいそと拾ってそれを引き出しへと仕舞った。

こういうところが完全にヒールになりきれないんだよなぁとあらぬことを一人で考えつつ。

 

 

とりあえず書類の山を分類してサインのあるものと無いものにわけて綺麗に机の隅へ重ねる。

案外早く終わったもんだなと自画自賛の笑みを浮かべていると、この部屋の主の気配を感じた。

 

 

 

「どこへ行っていたんですか」

 

振り返り、仁王立ち。

しかし普段彼以上にさぼっている彼女には何の威厳も持ち合わせていない。

もちろんそんなこと自他共に重々承知ではあるらしいのだが。

 

「上へ呼ばれてな」

 

意味深に笑うロイのそれはきっとの予想通りの内容だろう。

だけれど、どうもはひっかかっていた。自分はどうなるのだろうと。

 

 

「セントラルですか?」

「ああ、人員不足らしい」

 

皮肉った言い方をするのはヒューズの事も含めてだろう。

あれから私たちは極力明るく振舞ってきている、周りに気を使われぬよう、そしてお互いに気を使い合わぬよう。

しかしそれがお互いに解かってしまっているあたりどうも意味がないような気がしてならない。

似ているというのは、どうもこういう時に通用しない節があるのだ。

 

 

「全員、招集をかけた所だ。」

 

 

彼が何も言及しないことが少し怖いと思う。

 

「そうですか。大佐セントラルであんまりさぼらないでくださいね。」

にだけは言われたくないな。」

 

私はどうなるのだろうか、彼の野望についていく気はないと出会った頃に言った。

今でもそれは変わらない、この国が変わるとは、どうも思えない自分がいるから。

 

「あとあんまりなラブレターもやめたほうがいいですよ。熱い想いというより暑苦しいです。」

 

まるでアームストロング少佐みたいですよとが言った瞬間彼は心底嫌そうな顔をした。

それを面白そうに見つめる

 

私は、どうなるんですか?

 

その一言がどうしても出てこなかった。

 

 

 

彼はどう判断したのだろう、大総統は、彼の判断に首を縦に振ったのだろうか。

不安要素はひとつではない、数々。

そしてなにより、私は賢者の石を求めているだけだ。

自分の体へ戻るための手がかりになるであろうそれを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな不安そうな顔をするな。」

 

不意にそんな声が頭上から落ちてきたことに驚いてぱっと見上げる。

考え込んでいたのだろうか、彼が歩み寄ってきたことにすら気づかなかったみたいだ。

 

 

「そんな顔してますか?」

 

苦笑と肩をすくめる仕草、そしてそんな疑問を返すにロイは笑った。

 

「いや、さっぱり。」

「そんなきっぱりと言わなくても、」

「でも、」

 

 

の言葉に被せるように、でも、と上からのせて息をひとつ吸ったロイ。

でも?とは首を傾けて彼を見上げる。

こんなに身長高かったっけ、と不覚にも全く別のことを考えていたりはしたのだけれど、そんなことは一気に吹っ飛んでしまった。

 

 

いつも、いつもそうだ。

 

 

 

 

「わかってしまうんだ。」

 

も私のことなど、手に取るようにわかるだろう?

そう付け加えてロイは笑う。

 

 

 

「似ているって嫌ですね。」

「そうか?」

 

意外にも、否定的な返事が返ってきたことに少し驚いた。

同情とよべる感情を持ち合わせてしまうと、どうも堕落した恋愛に発展する可能性が高いとおもうから。

彼の言葉の続きを待ったけれど、それについて何かを補足する気はないようだ。

 

 

 

 

「ヒューズと約束したんだろう? なら、ついてくるか?」

 

選択肢を、与えられた。

彼に守ると約束した私に選択肢を、けれどそれはひどく不確かなことで私の不安を煽るということに彼は気づいているのだろうか。

きっと中尉や少尉、そして准尉は問答無用で「ついてこい」と言われるのだろうから。

 

必要じゃないのかな。私。

 

矛盾しているなと自分を嘲笑ってしまいそうだ、彼の野望に付き合う気はないのに。

それでも必要とされないことを怖がるだなんて。

 

 

 

「ついていかないと、そう言えばどうしますか?」

 

 

バタン、と扉が開いた。

 

そこにはリザ、ハボック、ブレダ、ファルマン、そしてフュリーが並んで立っており、はそれ以上口を開くのを諦める。

流れに任せようと、半ば諦めたような笑みが浮かんだ。

 

 

 

 

「ケイン・フュリー曹長」

 

優しい面持ちの彼が敬礼する姿を始めてみたかもしれない。

少しこちらを気遣うような視線をちらりとよこしたフュリーに、気にするなと笑った。

 

 

「ヴァトー・ファルマン准尉」

 

お菓子みたいな名前だなと、これまた場違いな感想は心中にとどめて置くことにした。

 

「ハイマンス・ブレダ少尉」

 

失礼な話だけれど、え、ハイマンスって名前だったんですかと心底驚いた。

似合わないなぁと場にそぐわないことを平然と考えてしまう。

 

「ジャン・ハボック少尉」

 

珍しくしゃんとしているハボックに少し笑みが零れてしまって、

軽く睨まれた。

 

 

「リザ・ホークアイ中尉」

 

ロイを囲むように立つ彼らの地位が上の者から呼ぶのだろう、ロイはリザを始めに呼ぶ。

それに敬礼と「はっ」という凛々しい返事で返すリザ。

 

 

 

 

 

 

「以上五名、私と共にセントラルへ異動となった。」

 

その言葉に、ロイ以外の全員が愕然と瞠目しているのがどうも人事のように感じてしまう。

自分のことなのに、笑ってしまいそうだ。

 

名前を呼ばれることはなかった。

 

 

 

「文句は言わせん、付いて来い。」

 

そんなロイの科白に、全員が返事をしていたけれど。

そこにきてやっと置いていかれるということが現実味を帯びてきて、

それでも私には笑顔で居続けることしかできなかった。

 

 

 

 

いってらっしゃい、と笑顔で一言。それが精一杯の虚勢だった。

 

 

 

 

 

アトガキ

まさかの放置プレイ。