綺麗な指だなと、彼の話に相槌をうちながら思わず見とれた。
指を軽く擦り合わせて音を鳴らせば、その手元から小さな火花が飛び散る。
そんな一連の動作がまるで催眠術のように頭が朦朧としていた。

「聞いているのか?」
「二割は。」
彼が指を弾く動作に夢中になるへロイが聞く。
返ってきた言葉にロイは肩を落とす仕草をしてみせるけれど、特に悪い気はしていなかった。
じっと見つめられるというのもいいものだ、なんて思う。
「私もそんなのがいいなぁ」
指の動きを止めずに何度も練成をしてみせるロイに、うっとりとした瞳を向ける。
もちろんロイにではなくその指に。
エドのオートメイルにうっとりとくるウィンリーと同じ類の生き物。
「そんなのということは、何かあるのか?」
は錬金術に関しては素人だと言い張る。
体術や剣術に関しては専門のプロフェッショナルだとも言い張る。
しかし彼女の玄人だという領域は既に神がかりな領域で、素人と主張する領域もそこそこの腕はあるものだとロイは解釈していた。
現に庶務に関しては自分自身で「無能」と主張しているし。
「左腕のブレスレッドにちょっと細工をしてますね。」
左手を突き出して、女物にしては僅かに厳つい純銀のそれを見せてくれる。
それは彼女の腕から抜け落ちるということはないらしい、丁度抜け落ちないサイズに錬成されていた。
「この腕輪、ヒューズにもらったんだろう?」
「わかりましたか、やっぱり。」
彼の趣味に似ているなと思って聞いてみれば案の定そうだった。
聞けばそのもらったリングに細工を施したらしい、少し嫉妬心も芽生えてしまう。
それがヒューズに対しても、に対しても両方でそんな自分に呆れてしまったロイ。
「この錬成陣、なかなか面白いな。」
ぱっと見ただけで素人はこの錬成陣を理解できないだろう。
はさすがにロイだなと感心した瞳を向けると「何をいまさら」という視線を浴びる。
「金属系が主体なのかなこれは?」
「銀です銀。似合ってるでしょう?」
銀灰の髪をぴっと引っ張り微笑む。その瞳は少し霞んでいた。
そんな自虐的な話の振り方をしなくてもと思うけれど、きっとそういう性格なのだろう。
忌み嫌っているその銀灰を。
「しかし、ここの練成をマグネシウムではなく炭素にしたほうがバリエーションが増えるぞ。」
「あー、なるほど。」
言われれば、そうだなという内容をざらざらと指摘されて、は完全に圧倒されていた。
やはり自分は素人だなと思う。ロイは十分に彼女を認めてはいるのだけれど、それでも彼女は認めないだろうから。
「元素にしたほうが種族が増えるが、組み合わせたほうが強いこともある。咄嗟にそれを頭に描けるなら元素のほうがよりいいだろう。」
できるか?とそうロイは聞く。はしばらく眉間に皺をよせていたが、ロイはそんなを待ってはくれなかった。
腕にあるリングに手を翳して、パキリと指を鳴らしてしまう。
それは錬成陣のかかれたシルバーをまっさらな状態へと戻してしまった。
それどころか、しばらく考えた後にもう一度手をかざしてくるので思わず手を引っ込める。
「なにするんですかっ」
「なに、私とヒューズからのプレゼントにしてもいいじゃないか」
引っ込めた掌をつかまれて、少しむすっとした表情で「不満か?」といわれれば「いえ」としか言いようが無かった。
不満だと主張するだけの気力はない。
「いった…」
「少し痛むぞ」
「先に言ってください。」
「先に言ったら怖いだろう。」
不毛なやりとりだなとは手首に走る痛みに耐えながらそう思う。
何をしているのだろうと手首をみるけれど、錬成の光で未だ見えない。
しばらくして眩しさが消え、その手首をまじまじと見つめる。
純銀のブレスレットは、銀灰の腕輪となっており、シンプルな紋様が散らばっていて綺麗だった。
しかしそこは驚くところではない。
その銀灰の腕輪は自身の皮膚と融合しているようにも見える。
それぞれが個々を主張はしているのだけれど、それはそこに同時に存在もしている。
そして腕の内側を見てみれば、綺麗な筆記体で文章が綴ってあった。
"銀灰のへ捧げる ロイ・マスタングより "
「これ完全にヒューズ無視してないですか?」
「ああ、忘れていた。」
全く持って忘れてなどいなさそうにしれっとそう言うロイ。
そんな彼をいちいち気にしていたら事態が展開しないとは諦めたように返事を返しながら改めて腕を見た。
綺麗な細工だなと思っていたそれも、よくみれば錬成陣の一部らしい。
好みなど知らないはずなのに、デザイン性などもの好みだった。
「完全に私の趣味で悪いが、悪くはないだろう。」
「ナルシズム全開ですね。でも好きです、ありがとうございます。」
後半の科白はロイの予想外のそれで、しかも極上の笑顔まで向けられた次第だ。
思わず、うっと言葉を詰まらせたロイを面白そうには見つめた。
「とでも言えばよろしいですか?」
ふふ、と笑うには余裕があり、ロイは苦笑を返すしかできなかった。
普段女性を掌で転がすということに慣れ過ぎていると、誤って転がされた瞬間の反応に困る。
それを楽しそうに見るに、すこし悔しささえあった。
「冗談です。可愛い、ありがとう。」
そんなロイへ向けて、今度は本当に嬉しそうに笑う。
そんな彼女を見れるのなんておそらくヒューズの消えた今、自分だけだろうと思うと優越感がわいて、
なんだか全てがどうでもよくなった。
「どういたしまして。、ちょっといいかな?」
ちょいちょいと手招きをされたは何の疑問も抱かずに彼の側へ寄った。
彼の両腕がこちらへまっすぐ伸びてきたかと思えばわたしの両サイドを通過して、
嗚呼、抱きしめられるのかなとわかったけれど拒むことはしなかった。
人は、温かいな。
そんなことを暢気に考えて、ほんの少し暖かい気持ちになった。
彼は全く違うことを考えていたようだけれど。
「いい加減私の女にならないか?」
「私は誰のものにもなりません。」
にこりと笑みを浮かべてそう返した。私は、もう誰のものにもなるつもりはない。
覚醒してしまった私を見た人は皆、恐れおののくからという理由ではない。
ただ単純に、ロイを守るため。
気づかないふりをしてきたけれど、きっとこれは恋だろう。
しかし、そんなことどうだっていい。
「大佐が、慰めてほしいときはいつでも抱きしめてあげます。」
ロイの肩を軽く押して、腕一つ分の距離をとる。
彼は不満そうな顔をしてこちらを見ていたけれど、はそれでも笑うしかなかった。
「けれど、あなたのものにはなりません。」
「何故?」
何故と聞かれて素直に答えるではないけれど、このときばかりは真剣に返そうと彼に瞳を合わせた。
これで彼が私から離れたとしても私は後悔しない。
そう決意して、ひとつ息を吸ってからゆっくりと説明をし始めた。
「私は、ずっとずっと生き続けるから。」
大佐は、いつか死んでしまうでしょう?
これ以上、何かに依存して生きていくと後が怖いんです。
それに、
「私は遅かれ早かれ、あと数回妖力開放をすれば覚醒してしまうから。」
「覚醒?」
「妖魔になります。貴方や、貴方の大切な人たちの内臓が欲しくて欲しくてたまらなくなるの。」
思ったよりも、ロイが動揺した様子はなかった。
それに少し安堵したは、再び口を開く。
「大佐、私のこと殺せますか?」
今度は、動揺しているのだろう。僅かに視線が泳いだのを見逃すわけもない。
は「そんな顔しないでください」と笑う。
「覚醒する前に、私は殺してもらわなければならないんです。」
でないと、この国自体が滅びてしまうかもしれない。
「覚醒しなければいい話ではあるんだけど、そればかりは戦い方によってそうしなければならないことがあるから。」
少しかなしそうに、は笑った。
そんな顔をさせるために聞いたわけじゃないのに、とロイも苦笑するしかない。
結局、私たちは悲しさや困惑や同様を笑みで隠すことをやめることは、できないんだろう。
「それでも私は、この体から妖魔の部分を出したいから。」
「出せばいいのか?」
今度は即座にそう返ってきた言葉の主を見上げれば、眉間に少し皺が寄っている。
何かを考えているのか、思いついたのか。
しばらくそんなロイを見守っていたけれど、未だ口は開かれない。
「方法が、無いでもないと思うんだが。」
鋼のに聞いてみないとわからないな、とロイは言った。
は何だと首を傾げるだけで、深く追求はせずに再びロイの胸に体を預ける。
そんなに今度は驚いた様子もみせず、しっかりと抱きしめた。
言葉よりも、素直に体が動いた自分には笑ってしまった。
何かを隠すように、笑ってしまった。
アトガキ
見切り発車だっていまごろ気づく、17話。