制御しきれない自分がいた、全ての欲に従順に従うそれは人間とは言い難い。

 

血管という血管全てが浮き出て、目尻が裂けて釣りあがるそんな自分の姿を鏡で見つめていた。

 

 

 

戻れ、 戻れ、 頼む。

 

 

 

 

 

 

 

戻ってくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ペチリと乾いた音が頬へ奔ったのは昼前のこと。

目の前には心配そうに覗き込む切れ長の目をした男、ロイ・マスタング。

 

 

「朝食、…食べようか。」

 

どうしたなんて無粋なことは聞かない彼に、少し安心し、そして同時に寂しいとも感じた。

背中までびっしょりと嫌な汗をかいている自分、そしてさっきまでの夢。

 

 

「シャワー借りますね。」

 

逃げるようには部屋を出てバスルームへと向かった。

そんな背中を溜息交じりに見送るロイ、とことんお互いに臆病な生き物だなと失笑しか出てこない。

どうした、とひとこと聞いてやるべきか否か。そんなひとつのことでお互いここまで葛藤しているとは。

 

 

 

 

「私も、まだまだだな。」

 

キッチンへ向かい、何もできない無能な彼女のために朝食を作り始めた。

蛇口を捻りケトルへ水をためる、跳ねた水分はひどく冷たい。

錬金術を使えばお湯なんて簡単に沸いてしまうけれど、必要のないところで使う気はしなかった。

 

けたたましくケトルが鳴り響く前にさっと火を消しコーヒーをいれる。

丁度パンも焼けたようだ、チンとひとつ音が鳴った。

 

 

 

ガチャ、と扉が開きが顔を出した。

ぽたりぽたりと水滴が滴っている彼女の髪は、鷲色。

銀灰の方が、似合っているのにとロイは想う。

 

 

 

「おはよう、ロイ。」

 

挨拶をしただけだ、そんな些細なことだけで目の前の彼は驚いていた。

フランクな物言いと、名前だろう。

少し目を見開いていたロイもすぐに目を細めて「おはよう、」と続けた。

 

 

「何か、不思議な感じ。」

 

椅子を引き腰掛けながら、は目の前に出されたコーヒーにだけ手をつける。

コーヒーは二つ、トーストは一つ、そしてフライドエッグも一つだけ。

 

「私は要らないから、が食べてくれ。」

「基本的にあまり朝は食べません。」

「私もだ。」

 

しばし沈黙の後それなら、半分にして二人で分けようという結論に至る。

ナイフもフォークもひとつずつしかない。

 

「…食べさせてとか言わないわよね。」

「言って欲しいのかい?」

「なら食べさせて、面倒だから。」

 

唇をちょいちょいと指差し口を開けたそんな些細な仕草でさえ誘っているのかと疑いたくなるロイ。

まぁそんなつもりはないだろうし、そうなのかと聞けば鉄拳が飛んできそうだから何も言わない。

 

「わかったよ。甘えん坊さんだなは。」

「海外のラブコメみたいな科白言わないでください…。」

 

しらっとした瞳で一刀両断、甘さと苦さを持ち合わせた彼女は

人間ではない、いや正確にいえば半分人間あとは妖魔らしい。

 

彼女の口に卵を三口放り込んだところで、難しそうな顔をされた。

 

 

「まずいのか?」

「いや、もうお腹いっぱいになっちゃった。」

 

一口で一週間は持つよとは笑う。

全く笑える内容ではないのだけれど、彼女の体はそういうつくりらしい。

 

さて、とたちあがったは食器を持ってシンクへと向かう。

そんな彼女に心配という文字しか浮かばないロイ。

蛇口から水を流して10秒、がしゃーんという音とのぁーという悲鳴が響いた。

 

 

「もうお前は何もするな…」

「…はい。」

 

どうやったらここまで粉砕できるのかという疑問さえ抱きそうな残骸と、の情けない顔。

それが妙に笑いしか誘わなくてロイは頭を数回軽くたたく。

さっとその場を片付けて、自分も仕度をしなければと時計を見ながらそう思う。

 

 

「私は仕度をして行くから、夜になったらおいで」

 

 

蛇口をきゅっと閉めてへ向かってそう告げる。

既に錬金術の書物に読みふけっていたは顔も向けずに「あい」と曖昧な返事だけをよこした。

それを確認して自室に戻り、新しいシャツに身を包む。

早くしないと遅刻だ、中尉の愛銃の餌食となってしまう羽目になるのだ。

 

 

「じゃ、行ってきます。」

 

 

くれぐれも、玄関から出ちゃ駄目だよ。

 

そんな言葉に顔を一度だけ上げて「はいはい、いってらっしゃい」と手を振った。

これじゃまるで本当に新婚さんみたいではないかと溜息を漏らしたのは彼が出て行った後。

 

 

 

 

「何だかなぁ、私こんな性格だったっけ。」

 

自らの動向さえあやふやになりそうなは自分自身に情けない声で問いかける。

兎にも角にも手元の錬金術を頭に叩き込まなければと再び視線を本へ戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます」

 

誰ともなく皆がそう挨拶をする中、ブレダが一人首を傾げる。

何かこの人機嫌よくないかという眼差しを素直にぶつけるが、もちろん返答などあるはずもない。

 

「大佐、何かあったんすか。」

 

ハボックも気づいたらしい、ブレダに加わりその疑問を口に出す。

それをきっかけに皆が「そういえば機嫌いいですね」的雰囲気になり、ロイは問いただされる羽目になる。

まぁ易々と口に出して言ってやるほど馬鹿ではないが。

 

「さあな。」

「匂いますね、女性の香り。」

 

ホークアイがどこかから戻ってきたのだろう、書類を小脇に抱えてそう続ける。

おはようございますという挨拶だけは忘れずに大佐へ物申す。

を置いてきたばかりなのに彼が機嫌がいいということは彼女がこちらに来ているということくらい誰が考えてもわかることなのだが。

 

そこまで考えて「そういうことか」と納得がいく。

態度でわかれということなのだろう。

 

 

「心強いですね。」

「そーいうことか。」

 

ホークアイが納得の行った笑みを浮かべると、ハボックも合点がいったらしい。

相槌をうちながらひとつ煙を吐き出した。

 

 

「観葉植物でも育て始めたということにしておこうか。」

 

あえてペットといわないのはどこかに盗聴器が隠されていてもいいように。

ペットといえば人間も考慮にいれてしまうから。

満面の笑みを浮かべるロイは、ホークアイの異変に気づく。

 

 

 

「中尉?」

「私も、育てることにしたんです。」

 

成長しなくてはね、という意味を込めてハボックをちらりと見る。

この二人にも何か変化があったのだろう、詳しく追求もしないししようとも思わないけれど。

 

 

「まあいい、諸君。今日も一日仕事三昧だ。」

「大佐もですよ。」

「・・・え。」

 

さっそく逃げる手段を探し始めるロイ・マスタング。

階級は大佐。

 

 

 

まぁいい、今日は夜になればにあえるから。

面倒な仕事だって片付けてやろうではないか、・・・・・・・・・・少しは。

 

 

 

 

 

 

 

アトガキ

俺はじゃっくばうあー、いつもだいぴんちー。収集がつかん。