好きか嫌いかと聞かれれば、好きだ。

 

特に恋愛にトラウマがあるというわけでもない、ただ人というものに違和感を覚えるだけ。

 

 

 

 

鏡に映る、生え際の銀灰をじっと見つめてそんなことを考えた。

 

 

だって私は、ヒトじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼と約束した通りに深夜へと刻が移り変わる時分、は闇へと身を滑らせる。

暗闇と一体化することなどいとも容易いことだ。

 

「おーい。」

 

声をかけてくるそいつを私は知っていた。けれど気づかないふりをする。

彼も私と一緒でこの暗闇で生きる羽目となっているのだろう。

 

「おい、おーい、聞いてんのか。」

「聞いてない。」

 

タッタッとリズムよく屋根を飛ぶ私に合わせる様についてくる。

 

ー、さーん。」

「うるさいバリー、私今お尋ね者なんだからあんまり構わないで。」

 

どうせバリーもでしょ、あんたが生きてるってことは第五研究所から逃げたということだろうし。

そう続けると、心底楽しそうにうっしっしと笑うバリー。

そんな彼に、中央まで向かっていると知れるのも嫌だったのでその場に静止する。

 

 

「何なの?」

「いや、見かけたから声かけただけ。」

 

俺も最近大変なんだよと身の上話まで始められてはも黙って聞くしかない。

適当に相槌をうって十分、もういいかと聞くもそんな言葉さえ彼の耳には入っていないらしい。

苛々、その感情が次第に私を支配していく。

 

 

 

 

 

 

「・・・を?」

「切り刻むわよ。」

「ひーーーー。」

 

その暗闇より更に黒い雰囲気全開でが笑っている姿にバリーも悲鳴をあげるしかない。

両手を挙げて降参のポーズをとり、全面降伏。

 

 

「あんまり無茶しないのよ。」

「へーい。」

「じゃ、またね。」

 

 

 

またね、そう声をかけるところが彼女の優しさだと知っている。

人の肉を切り刻んできたバリーですら、不器用な彼女の優しさはわかっていた。

すっと立ち完全に闇と一体化して去る彼女の背中をぼんやりと眺めて、バリーもその闇へと踊りだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Sサイズ、S、S、あったあった。」

 

どうせだから表から堂々と入ってやろう、そんな悪戯心が芽生えた

更衣室へ忍び込み、忘れた際の貸し出し用の制服へと袖を通す。

こんな深夜に女子更衣室に居る人間などいない、容易い作業だった。

 

「メガネよーし、コンタクトよーし」

 

鏡の前で工事現場のおじさんのように点検をする

またもや「私こんな人だったっけ」という疑問にかられたけれど、この際どうでもいいと思う。

 

適当に書類やファイルを見繕って、慣れた足取りで軍部内を早足で進む。

途中数人の軍人とすれ違ったが、曹長くらいの階級だろう、直接の面識もないので疑われることもなかった。

ほどなくロイ達の居るであろう執務室にたどり着く。

 

 

「ブレダ、ファルマン…二人か。」

 

扉から漏れる声に夜勤の面子を想像し、これならバレないなと笑みを深めた。

そしてトントンとふたつノックをして扉が開くのをまつ。

 

すぐに扉は開かれて、扉を開けたファルマンと座ったままこちらを見るブレダ、予想通りの面子だった。

 

 

「深夜までご苦労様です、ルノアール少佐からマスタング大佐への書類と言伝を預かっているのですがお通し願えますか?」

 

一方扉を開いた二人からすれば、こんな深夜に見たこともない美女がたずねてきたと少し気分がいい。

深夜の暇つぶしの話題はきっと彼女に決定だ。

そんな意見が一致したのかお互いに目を合わせてふっと笑った。

まさか、だなんて気づきもせず。

 

ブレダは大佐のこもった彼自身の執務室へと取次ぎに行く。

ロイが楽しそうに「部屋へ入れてくれ」と言うのが妙に印象的で、そしてどこか引っかかりもした。

 

 

「深夜にごめんなさいマスタング大佐。これが頼まれていた書類です。」

 

部屋に脚を踏み入れたのは、であってでない。

・・・いや、でないのか?

一瞬真剣に戸惑った、ただの業務をこなしにきただけの女性ではないかと。

それほどに完璧な変装を遂げていたのだ。

 

「ああ、すまない助かった。どうだい、お茶でも飲んで帰らないか?」

 

この人は24時間口説き続けてるよと彼女の後ろにいる二人のひそひそ声が聞こえた。

ロイからすれば、それが何か的なものだったが。

 

「丁度よかった、お時間があるなら錬金術のご指導お願いしたくて。ルノアール少佐からお話は聞いてますよね?」

「ああ、一ヵ月後の国家試験を受けるんだろう?いいだろう、時間も今は空いているからここで教えてあげるよ。」

「まぁ、ありがとうございます。」

 

心底嬉しそうな声音で表現するの口元は小さな舌をぺろっと出していた。

それは方向的にロイにしか見えない。

間違いなくだなと、ロイも軽く笑う。

 

 

「大佐ー、俺らちょっと仮眠とってきていいすか。」

「ああ、何かあったら言ってくれ。」

「じゃ、いただきます。」

 

 

ふあぁと欠伸を噛み殺すブレダに「おつかれさまです」と絶世の微笑を向ける

犯罪だとロイは死角で引きつった笑みを浮かべるしかない。

二人が出て行ったところで、彼女の皮はあっさりと消え去った。

 

 

「なんちゃって。」

「まさか正面から来るとは思わなかったよ。」

 

呆れ半分、そしていたずらっ子のような笑み半分のロイにも笑みを返す。

しかし彼女はここへ会話をしにきたというわけではない。

いそいそと錬金術の書物を広げ始め、ここから講義してくださいと主張する。

 

「私も退屈していたところだ、少し話でもしないか?」

「しない、早く教えてください。」

 

きっと睨まれて、わかったよと肩をすくめてみせるロイ。

しかしそれ以上に彼女のなかに何かを感じた、少し焦っているようにも見える。

そこまでして錬金術を叩き込んで、何の意味があるというのか。

 

深く聞くのはやめる、いつものことだ。

 

 

「ところで、実技はどうするつもりなんだ?」

「そっちは自分で構想練ってますよ、いざとなれば何だってするつもりです。」

 

何をするつもりなんだ。

怖くて聞けなかった。

 

「ところで大佐、私ヒューズのお墓参りしてきましたよ。」

「・・・そうか。」

「そんな顔しないでください、先に進まないと。」

 

彼が生きてきた意味がなくなってしまうでしょう?

 

言葉にしなくとも、いつか聞いたその言葉が胸に響く。

少し悲しそうには笑いかけていた。

 

「大佐と一緒に寝ちゃったけど、何もしませんでした。って報告しておきました。」

 

きっと今頃あっちの世界で憤慨してますよと続けて、少し笑う。

そんな彼女にロイも薄く笑みを浮かべる。

 

深く深く傷ついた傷に蓋をしていると、化膿してしまうだけだと言われているのだと。

 

 

「カリウム3g、ん…5か?」

「4だ。」

「おしい、間か。」

「知っているか?おしくても何でも、間違いは間違いだ。」

「ぬ…。」

 

複雑な計算式に頭を抱えるは、とても楽しそうな表情をしていた。

正直彼女は研究者向きだとも思う。

学者はもってこいだ、物事を追及するのが楽しくて楽しくて仕方ないという表情をするから。

 

 

リリリリリリリリン、リリリリリリリン、

 

執務室の電話が突如鳴り響く。

 

 

『マスタング大佐、一般回線から通信です』

 

「つないでくれ」

 

椅子をくるりと回転させて、ロイは電話主を待った。

誰だろう、はそんな電話線を眺めて疑問を抱く。

 

「ああ、ホークアイ中尉か。どうした、今日は終業しただろう?」

 

彼女が一般回線から繋ぐということは珍しい。

何かあったのかなと思うと同時に、何となく嫌な予感がした。

 

「何?ああ、わかった。すぐに行く。」

 

かちゃりと電話を置いたロイは立ち上がりを見遣る。

何と言われるだろうと思い、は素直に見上げる。

 

「中尉が、変なのを捕まえたと言っていて。」

 

 

 

 

 

うわーーーーー、さっき変なのに会ったよ。

 

喉まで出かけた言葉を飲み込んだ。

 

 

「ファルマンと行ってくるよ。着いてくるか?」

 

縦に振っても横に振っても、どうあがいたところでその変なのと再会することはわかりきってしまったことで。

どうせなら早いほうがいいかと、は首をひとつ縦に振った。

 

 

「別行動で付いていきます。」

 

 

もさっと立ち上がり、散らした書類をひとつにまとめて部屋を出る。

急いで黒装束に着替えて街へと飛び出さなければ。

 

しかし足取りはどこか重たかった。

 

 

 

 

 

 

アトガキ

捏造しまくり。