すんません、まじすんません。

 

明らかに凶悪犯のなりをしたそいつがひたすら頭を下げているのは、ぱっと見貧弱そうな女。

 

 

対する彼女は溜息をひとつ吐くだけで、言葉はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「09年5月30日は?」

 

歩く生字引ことファルマンが、バリーにひとつひとつ質問をしていく。

よくもここまで正確に事件を覚えているものだなと、物陰に潜みながらは感心した。

 

「レイルズだな、5番外の酒蔵の裏で殺った。」

 

全く楽しくも宜しくもない内容を非常に楽しそうに嬉々として話すバリー。

は溜息をひとつ吐きながら「そいつは間違いなくバリーだよ。」と思う。

 

そう思う間にもファルマンの質問は続くは続く。

本当によくここまで暗記しているものだ、心底尊敬する。

 

 

「11年3月3日のガドリエル事件は…」

「ガドリエルを殺ったのは3日じゃねえ、13日だ。」

 

お前もよくそこまで覚えてるな、と思ったけれどそこはまぁ置いておこう。

バリーを囲むファルマン、ホークアイ、大佐は彼が本人かどうかを確認している模様だった。

 

「月の綺麗な夜だった、手元が見えて解体しやすくてよ。」

 

きっひっひと場に似合わぬ笑い声を上げるバリーに中尉は資材置き場の鉄の棒で一発殴る。

よくやった、ひとつ掌を握りなおしてガッツポーズ。

出て行こうか出て行くまいか、心底悩んだけれど…とりあえず様子を見る。

 

 

 

「どうだ?」

「引っ掛けにものりませんね、やはりここまで知っているとなると本物かと…」

 

腕を組み神妙な顔つきをしたロイは、まさかファルマンの情報に誤りがあるとも思えない。

そして目の前のバリーが嘘をついているようにも思えなかった。

バリーは「なんなら解体してみせてやる」といい始めたが、またもや中尉の一発に沈没。

 

「何故死刑になったはずのお前がいる。しかもアルフォンス・エルリックと同じ鎧の姿で。」

 

しばらく考えるようにしていたロイは、バリーにそう問いかける。

そんなロイにバリーも僅かに首をかしげ、ちらりと私が隠れている場所の方を見てから口を開いた。

 

「その質問に答える前にこっちにも質問があるんだが」

 

これはややこしくなるなと思いつつ、諦めたように空を仰いだ。

暗転だけはしませんようにと、信じぬ神に祈りをこめて。

 

 

 

 

「おめぇら軍人のようだが俺がこの姿になったことを知らなかったんだな?」

「ああ。」

「OKOK!てぇことは第五研究室のことも知らねェな?」

 

そういえばロイにすら何も言っていないことが沢山あるなとは笑う。

ホムンクルスに関しても、賢者の石の研究の第五研究所、そして第三研究所…、秘密にしてきたわけではないのだが。

あまり危険なことに関わって欲しくはなかったから。

 

そして出来ることなら、これからも関わるべきではないと思う。

 

 

出て行くのは、きっと今。

 

 

 

 

「バリー、黙りなさい。」

 

 

静かな空間に、の憤怒を含めた声音が響き渡った。

 

 

「貴女はさっきの…」

「何故だ?」

 

ファルマンは現状が理解できないらしい、そんな彼の言葉はロイの言葉に飲み込まれる。

少し不服そうな感情が篭った声音。

はそんなロイにですら鋭い視線を向けた。

 

 

「危険だわ。貴方達じゃ太刀打ちできる相手ではない。」

「・・・ま、それもそーだな。」

 

バリーも賛同したけれど、彼は続けてこうも言った。

 

「だが、俺ぁこの軍人さん方に協力すると決めたんで、お前らが望むなら教えてやってもいいぜ。」

 

まさかマスタング御一行がひきさがるとはどうも思えない。

は諦めたようにはぁとひとつ溜息をはいて、その場に座り込む。

もうどうなっても知らないわよ、といわんばかりの視線を送るがロイはそれがどうしたと言わんばかりの態度だ。

 

 

 

「さぁ、話してくれないか。」

 

 

彼の決意で、長い長いバリーの話が始まった。

はその間、誰とも視線を合わせずどこか遠い場所をじっと眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君はどこまで知っていたのかい?」

 

バリーの話を聞き終えて、ファルマンは長期休暇に入った。

その帰り道、大佐と中尉の少し後を歩く私にロイはそう問いかけてくる。

中尉はもう私が誰だかということくらいはわかっているのだろう。

 

 

「全て、・・・いやそれ以上ですかね。」

 

ですが私は何も話すつもりはありません、と続け。

実際私自身かなり核な場所にいるとは思うけれど、どこまで知っているかと聞かれればわからない。

私は信用されてなどいなかったから。

 

「でも敵にはなりません。」

 

私は、彼との約束を全うするために今生かされているんです。

貴方達を守らなくては、支えていかなくてはいけないんですとは笑った。

そんなの言葉にロイは改めての中のヒューズの大きさを思い知った。

そして同時に敵わないなと苦笑する。

 

 

 

「危ない道は全て私が引き受けるから、無茶しないでくださいね二人とも。」

 

こちらをじっと見つめる四つの瞳にそっと笑いかけた。

もう、失うのは嫌だと思う私は人と関わりすぎてしまっただろうか。

 

 

「何言ってるの、お茶もわかせないくせに。」

「そうだ、もっと頼りなさい。」

 

無表情だった二人が同時に「はぁ」と溜息をつきながら説教を始めた。

頼りなさいと、もっと頼ってくれないかと、何度もそんな科白が聞こえて、

数回頭で反芻するその言葉。

 

 

頼るもなにも、力の差は圧倒的で。

ならば彼らが何を言っているのかといえば、きっと精神面。

 

 

 

 

「善処します。」

 

ずっと長く生きている自分よりも、なんだかずっとしっかりしているような彼らに肩をすくめて返事をかえした。

そんなに脆く見えているのだろうか、自分は今。

 

「とりあえず、私はこれで失礼します。」

 

何かを考えるようにしていた中尉は、頭をひとつ下げてそう言った。

ここに居たくないというのとはどこか違う、何だろう。

誰かに会いに行くような雰囲気を感じた。

 

 

「では大佐はまた明日。はまたね。」

 

小脇に抱えた紙袋からちらりと長ネギをのぞかせながら、彼女は去っていった。

不思議そうにその後姿を眺めていると、ロイがそんな私を見て口をひらく。

 

 

 

「新しい道を探し始めたんだと、言っていたよ。」

 

だから、そんなに複雑な顔をしないんだよとロイは言う。

そんな複雑な顔をした覚えはないけれど、そうとられてしまったらしい。

別に今更あまり気にしてもいないし、元々そこまで気にしていなかった。

 

 

 

 

「さて、軍部へ戻って勉強を再開しないと。」

 

国家試験は一ヶ月後だよ、追い討ちをかけるように言うロイには一瞬顔をひきつらせた。

余裕をかましていたら落ちてしまうとは本気で怯えていた。

 

 

 

 

 

 

 

「カンニング…」

「外道だ。」

 

 

 

虚しい響きが夜の街に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

アトガキ

短めに仕上がってしまいましたすみません。