「何をしているんだね?」
青白い顔で洗面所を出た瞬間、扉の横に立っていたのはキング・ブラッドレイ。
「・・・見ての通りだよ。」
ぼろぼろでね、落ちぶれたもんだとは笑った。

「気づいていないとでも思っていたのかな?」
にこりと笑みを浮かべながら言う彼の言葉は全く笑気など含んではいなかった。
乾いた笑いを浮かべて「まさか、目立ちたくないだけだよ」と嘘をつく。
ばれないとは思っていなかったけれど、ばれなければいいとは思っていたから。
「邪魔はしないから、服役させてくれないかなラース。」
「私の一存ではなんとも言えな、」
コツコツと小さな靴音が聞こえる、そこには彼の養子セリム・ブラッドレイ。
夜勤明けに近いこの時間に彼の存在は異色といってもいい。
こんなに小さな少年がこんな場所へ居てもよい時間ではなかった。
「いいよ。」
弱ってるみたいだし、特に害はないよねとセリムは言う。
ラースは下を向き俯いたままじっと何かを考えているようだった。
セリム、いやプライドは本当に食えない存在だということを知っている。
あまりいい気分ではなかった。
「そろそろ、やばいんだろう?」
時間がないのだろう?と彼は笑う。
彼らとて、覚醒して暴走したの存在は脅威でしかなくなる。
だったら彼女の好きなようにヒトへ戻る方法をぎりぎりまで探究させるのも良いだろう。
「まあね、この通り。」
青白い顔を指差してへらっと笑った。
内心、苛々といた感情が渦巻いていた。
そんな中身に敏感なのは、プライドよりもラース。険悪な雰囲気になる前に切り上げようとプライドを諭す。
「特例として国家錬金術師資格試験を早めよう。」
「権力乱用っていうのよそういうの。」
「まぁいいだろう?それで、試験をパスしたら書物など好き勝手にできるだろう、それなりの身分を与えられるんだ。」
つまり、エドワードと同じ位置に立てといっているんだなと理解する。
しかし試験はいつだというのか?
「明日、いや日付だけでいえば今日だな。今日の午後3時から、わかったか?」
わかんねーよ。
溜息をひとつ吐きながら肩をすくめた。
体調だって万全なわけでないのに、しかしそんな言い訳など通用する相手でもない。
「わかった、やってやろうじゃない。」
プライドが鼻で笑ったのが妙に癪に障った。
しかし今はそんなことに構っている時間などない、追い込みをしないと。
「容赦はせんぞ」
「はいはい」
ラースがにかっと笑ったのを軽く受け流して、は急いでロイ達の執務室へと飛び込むことになった。
余裕をかました発言ばかりしたけれど、試験前になると不安になるという気持ちはわかるだろうか。
青白い顔をして出て行ったが赤い顔をして部屋に駆け込んでくる。
ブレダには目もくれずに、手当たり次第に書物を引っ張ってはなにかを書きなぐる。
ロイはそのただ事ではないようなどたばたとした雰囲気を察して自室から顔を出したけれど、
は彼にすら顔を向けなかった。
「どうしたんだ?」
「いきなり駆け込んできて勉強始めたみたいです」
彼らに目もくれずにぶつぶつと錬金術にかんする資料を読みながら復唱する。
二人は首を傾げるだけだったが、その疑問はすぐに解消されることとなる。
バターーーーーン、
大きな音と、急いで走ってきたのだろう肩で息をするフュリー。
「本日急遽、国家錬金術試験を臨時で行うってどういうことですか?!」
なるほどとロイは目の前の光景に合点がいく。
そしてそれはあまりに唐突なことで、が焦っているのもわかった。
錬金術関係の書物をひたすらに読み漁るを見たブレダもその意味に納得がいったようだ。
「って、どなたですか?」
「おはよう、フュリー」
片手だけをさっとあげて挨拶をするに「中佐ーっ」と盛大に驚いてみせるフュリー。
口元だけで笑みを軽く作って「そういうことなんで、ちょっと私の存在空気だと思ってください今日の3時まで。」
そう続けて言った彼女の言葉にロイは思い出したような仕草でブレダとフュリーを自身の司令室へと率いて行った。
ファルマンとバリーのことだろう、そう思うのも一瞬で、は目の前の膨大な文献に意識を集中した。
「ということで、よろしく頼む。」
コードネームをそれぞれに与え、任務を分担する。
基本的な任務は与えたが、後は臨機応変にこなしてくれるだろうとロイは思う。
我ながら優秀な部下達だと。
「あそこに居たのはですよね?」
「ああ、突如緊急で今日国家試験らしい。」
「どうなんすか?」
「問題ない。」
満面の笑みを作る上司に、ホークアイは笑みで返した。
それを見ていたハボックは、この二人も大人だなと静観。
あんなにごたごたしたのに、やはり彼らは男女の情よりも上司部下の関係が強かったみたいだ。
それでも少し、嫉妬した。
「私はこれから軍議だから、暇がある者はサポートしてやってくれ。」
じゃ、と立ち上がって颯爽と部屋を去るロイの背を見つめていたホークアイがくるりと振り返る。
その視線の先にはハボックが居て、彼は首をわずかに傾げた。
「嫉妬心、丸出しよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・すんません。」
隠していたつもりだったが、彼女の前では何の意味もないらしい。
肩をすくめて謝罪の言葉と共に軽く頭を下げた。
「でも、嫌じゃない。」
ふふ、と笑いながら部屋を出て行くホークアイの背中を呆然と眺めていた。
惚れた弱みだな、そう独りごちて。
アトガキ
次回、国家錬金術試験です。