前代未聞だと誰もが唖然としたのは、特例として国家錬金術試験を受けていたの実技。

 

錬金術の試験で、錬金をせずにパスしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

筆記試験はとりあえずパスしたらしい、実技の知らせがやってきた。

わかっていたけれど、それは今からすぐだという。

 

どうしたものかと頭を悩ませている視界の隅に、ロイがはいった。

 

 

「あ、そっか。」

 

まぁ彼の面目を潰すことになるかもしれないが、敵を油断させるには十分の作戦ともなりうるだろう。

一瞬目があったロイに苦笑を返すと、僅かばかり首を傾げられた。

 

 

 

 

「それでは、実技試験を開始する。」

 

試験監督の号令により、私はだだっ広い試験場のど真ん中まで歩く。

そこで、ぐるりと周りを見渡して一言要請をする。

 

 

「戦闘形式の実技も可能ですよね?」

「・・・面白い、やってみるがよい。」

 

大総統、じきじきに許可をもらえばこちらのものだ。

まるで挑発するように、試験を見ている面々へと言葉を発する。

 

 

 

「私に勝てると思う人がいれば、何人でもかかってきて。制限時間は1時間でどうでしょう?」

 

なめているのかと、何も知らない面々はバカにする。

こんな小娘に負ける訳もないと鷹をくくって、馬鹿にしやがってと立ち向かってくる数十数名。

 

佐官クラス以上の人間が誰一人いないことが、この試験の決め手にかけると判断したは、

あえて喧嘩をふっかけるように彼らに微笑んだ。

 

 

 

「あれ、そんなに弱いんですか?」

「挑発には乗らんぞ。」

 

あっさりと切り捨てられたそれに、手法を変えざるをえない。

は幸い防御型のクレイモアだった。

 

 

 

 

「ならわかりました、私は一切攻撃をしないので皆さん御参加願えますか?」

「いや、」

 

そこで思わぬ形で遮ったのは、ロイだった。

 

 

「その志願している者達と、私でどうだ?」

 

ざわざわと、会場が沸いた。

人間兵器と呼ばれた中でも、イシュヴァールの英雄と称されるロイが志願したのだ。

それでも、佐官以上の者はの勝利は当然のことだとわかる。

そこでアームストロングがひとつ手をあげた。

 

それから、ぽつりぽつりと手が挙がっていき、最終的には「え、やらないんですか?」的空気に押されて全員が参加する羽目となっていた。

そんな情景を見てラースは薄く笑っていた。

 

 

 

 

 

「レディー、」

 

 

ゴーっ。

 

 

 

の合図が終わるか終わらないか、各々が自慢の技を繰り返してくる。

それを避けるわけでもなく、ただ立ち尽くしているに佐官以下は逆上して連続で技を繰り出したり発砲したり。

それをただぼーっと、突っ立っているは異様な光景だった。

 

佐官以上は彼女の力量は知っていたつもりだったのだが、目の当たりにして愕然とする。

 

 

弾道は避けるのではなく、弾丸が彼女を避けていた。

 

 

 

 

「危ないよ、そんなに無闇に発砲すると。」

 

あまりにも無謀なそれに、は軍人がこれでいいのかと呆れた視線を送る。

そしてそれにまた逆上して無謀な攻撃を繰り返す彼らは、5分もたたないうちに自滅していた。

 

 

「さて、これからが本番ですかね?」

 

伸びた軍人を端に追いやって、佐官以上の者達と対峙する。

ロイが不適に笑っているそれは、容赦しないよと言っているのだろう。

 

 

「行くぞ、!」

 

一番に攻撃をしかけてきたのはアームストロング。

力技としては秀でている彼には余裕の笑みを浮かべながら、右手の一部分だけ妖力開放をする。

床を割り、大量の石礫を錬成してこちらに向かってくるそれを、

 

 

 

 

 

 

「アー●パーンチ」

 

 

 

 

 

ア●パンマンの真似をして、可愛らしく粉砕した。

 

 

 

「な、なぬっ。それは、あの伝説のア●パンマンの必殺技ではなかろうか!」

「はいそうです。」

 

 

そうですじゃ、ないだろ。

 

何だか、勝てそうな気がしてきたぞと誰もが思ってしまう。

それがそもそもの間違いだと気づくのは、少し後。

 

 

名の知れ渡る名戦士達が続々とかかって来るのを、ただただ避けたり割ったり、一向に彼女は攻撃をしかけるそぶりをみせない。

まさか、体調の悪さをひきずっているのではないかとロイは少し心配になったけれどそういう訳でもなさそうだった。

ラースだけは、ただじっとその光景を見ていた。どう動こうか、考えているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、それくらいにしないか悪ふざけは。」

「あら、お出ましですか?」

 

 

すっくと立ち上がった大総統に、誰もがの敗北を予感した。

彼の技はもはや人間業ではない。

 

しかし、ロイだけはの勝利を確信していた。理由はない、ただの勘。

 

 

 

 

 

 

「ほれ」

 

そう言って、大剣クレイモアを出せと指示を出される。

軽々と背中に担ぐ、その剣を抜く。

 

 

 

 

その場に、緊張が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・お前、見えるか?」

「見えません。」

「俺も見えねーな。」

「俺ら、この国にいらねんじゃね?」

 

 

目の前でくりひろげられる剣舞のような戦いの軌跡はどこにも見えない。

彼らの動きが早すぎて、もはや視力がついてきていなかった。

佐官以下は伸びたその体制のままそんな会話をかわす。

 

 

しかし力量のある者は、彼らの戦いの状況がわかっていた。

 

 

は、受身の一点張りですな。」

「押されているのか?」

 

 

 

 

 

 

いや、笑っている?

 

ロイは何故だかそう見えた。そしてそれは、間違いではないと後でわかる。

面白そうだなと思い、動きを開始する。

 

 

 

「よし、不意打ちも必要だろう少佐?」

「面白いですな、連携プレイを見せてやりましょうぞ。」

「・・・・・・」

「何か?」

「いや(嫌。」

 

 

 

成長したなとはそのラースの腕っ節を見て思う。

高速な繰り出しは、もはや人間の瞳ではわからないけれど、

高速剣が得意なからしたらとんだ茶番だった。

 

そんなの表情に、ラースはうっすらと笑みを浮かべる。

 

 

 

斜め後ろに突然飛び去ったと思うと、そこに居たはずの場所には大きく手を振りかざしたアームストロング。

 

 

 

「囮ですか…」

 

これから攻撃をしかけてくるアームストロングにではなく、囮となっていたラースにそんな言葉を投げる。

少佐に対しては、視線も向けずに、

 

 

 

 

 

 

「アー●キーック」

 

 

ドゴォォォォォォォォォオオン

 

 

「なっ、アームストロング家に代々伝わるこの攻撃をあの伝説のア●パンマ、」

「邪魔だ」

 

 

大げさにショックをうけている少佐を蹴り飛ばして、突如そこにロイが出現する。

ラースの後ろにいた少佐は大きさ的に気づいていたけれど、ロイには気づいていなかった。

 

意外と、小さいから。

 

 

「なっ、」

「とどめだ。」

 

 

パキリと指を鳴らしたロイは、それだけでは全てが終わらない予感がしていた。

そしてその予感は的中することとなる。

 

 

 

「―んちゃって」

 

 

 

見事としか言い様が無かった。

繰り出される業火のなかを、軽く避けながら彼女は私の目の前に立っていたのだから。

 

その顔には、笑み。

 

完敗だ。

 

 

 

・・・と、諦めるにはまだ早いだろう?

 

 

 

 

 

 

「っだー!何するんですか大佐」

 

そこまでは予想していた。彼女ならきっと避けるだろうと。

だから、とりあえず何も使わず自分の腕一つで彼女を抱きしめた。

 

「捕獲しました。」

 

 

 

 

 

 

バッチーーーン

 

見事なビンタが炸裂した。

 

 

 

 

「変態。」

 

変態と罵られたことよりも、彼女の錆びた鉄のような臭いが気になった。

見た目はどこも怪我をしている様子はない。

至近距離で抱きしめたときだけにするその鉄臭さ。

 

 

―――

―――何?

――― ・・・後でいい。

 

周りに聞こえない声音で会話をかわすその瞬間も顔を合わせることはない。

ラース達に不必要に警戒されるのはゴメンだ。

 

 

 

「決着はついたな。」

 

カツリカツリとこちらへ歩みを進める大総統へ、敬礼をする。

ケリはついたと彼は言うけれど、錬金術は何ひとつ使っていない。

 

「これでいいのですか?」

「ああ、筆記はパスしている。実技もあれだけの錬金術の受身を取れるのなら誰も文句は言うまい。」

 

文句は言うまい、そう言って周りを見渡す大総統に誰もが降参だといわんばかりの顔をしていた。

結構いい加減だなとは思うけれど、パスできたのなら問題ない。

これで思う存分軍部内をうろつけるし、書物も読み放題だ。

 

 

 

 

「二つ名は、・・・考えておく。以上で終了する。」

 

颯爽とその場を去っていく大総統とその補佐官達を敬礼して見送り、私はその場へ座り込んだ。

ああ、焦った。正直作戦などなにも練っていなかった。

作戦を練っていると自己暗示をかけてそれらしいフリをしていただけにすぎない。

 

はったり作戦。つまり、いい加減この上ない。

 

 

 

「お疲れ、とでも言っておこうか。」

「とりあえずおめでとうじゃないですか?」

 

軍の狗、おめでとう。

彼は皮肉ってそう小声で言った。彼はまだ知らないのだ。

 

とっくに私は軍の狗として動いてきている。

不必要なことは、誰にも言わずに抱え込んでいるなと苦笑するのは自分自身へ向けて。

 

 

 

肩を並べてロイと執務室へと向かう途中、神妙な顔をしてこちらを向かれた。

さっき、後でいいという風に言った内容だろう。

誤魔化せないことくらいはもうわかっていた。

 

ちょいちょいと軽く廊下の隅に引っ張られ、軽くへこんだ廊下に唯一ある死角へと連れていかれる。

 

 

「近くないですか。」

「におうな。鉄臭い。」

「気のせいじゃないですか?」

 

最期の足掻きとばかりにしらばっくれるけれど、それが思わぬ形で反撃をくらう事となる。

 

 

そして何故咄嗟に瞳を閉じてしまったのか自分でもわからない。

真剣な表情をして端整なロイの顔が近づいてきたのだ。

反射的に、瞳を閉じてしまった。

 

唇がそっと触れて、すぐに離れた。

 

 

 

 

「赤いぞ。」

「・・・赤くないです。」

 

「少し、休みなさい私の部屋で。」

 

火照る頬を両手で挟まれて、無性に恥ずかしくなった。

そして同時に、吐血に気づかれて無性に情けなくもなったけれど、ここはロイの優しさに甘えようと思う。

 

 

 

一応補足しておくが、ここは廊下だ。

そのことに気づいた時のの慌てふためきっぷりは、ロイだけのものに。

 

 

 

 

 

アトガキ

ぬるい、ぬるいぞチューが。