飛び起きた彼女の第一声に、少し嫉妬した。
けれど、彼女のそんな一面が垣間見れたことが嬉しくもあった。

病人や怪我人が収容される場所を病院というならば、きっと私は今重傷の怪我人。
隣で悪態をつく部下のハボックもまた、重傷の怪我人ということになるのだろう。
ちらりと少し離れた場所にあるベットを見遣った。
「、大変だったみたいっスね。」
「あぁ…、まぁな。」
事の概要は聞いていたハボックが、ロイの視線に気づいてぽつりと口をひらく。
それに軽く相槌をうったロイは、青白い顔をして眠るから視線をそらした。
カチャリと扉が開く。
そこには少し節目がちなホークアイが立っていて、彼女はロイに敬礼をした。
そして求められるがままに昨日の経緯を掻い摘んで話し始めるのだけれど、それは怒りに値する内容も含んでいて、
「この馬鹿者!」
「ッ!」
目の前にした彼女に罵倒を浴びせずにはいられなかったのはロイ。
聞けば自分が死んだと聞かされて戦意を消失したらしい。
「この私の副官であるホークアイ中尉ともあろう人間が。」
「すみません。」
部下が死ぬかもしれないという喪失感を感じたこと数回。
ヒューズの影がちらついて仕方ない。
項垂れるホークアイの姿は彼女が生きている証、胸を撫で下ろす最大の要因となるのだけれど。
そして自分が彼女達部下を守りきれなかったことへの八つ当たりだということくらい、わかっているのだけれど。
「引き続き、私の背中を任せる。」
「はっ。」
「・・・大佐も人のこといえないじゃないッスか、上官がノコノコ現場まで出てきちまって。」
茶々をいれなければ何も被害に合わないのに、どうして被害をあびるような言葉をわざわざ吐くのか。
それはロイへ対する嫉妬か、それともただの趣味か。
「大体お前は、」
完全に矛先がハボックへ向いたと思われたその瞬間。
ガタリと音がして人がひとり床へと転がり落ちる。
「ガラテアは?」
そしてまるで落ちたことなど何もなかったように、開口一番そう首を傾げていた。
彼女が目を醒ましたことに驚けばいいのか、床に落ちたことへ心配すればいいのか、
落ちたことなど何もなかったようにそう口にしたことに驚けばいいのか…。
「!あなた大丈夫なの?」
「・・・あぁ。」
あれくらいはクレイモアにしてみれば日常茶飯事に近いと彼女は言った。
それは彼らからすれば既に非日常的なものだと気づかずに、そんな目をされたその瞬間やっと気づく。
「あ、ごめんなさい。大丈夫。」
既に遅いその取り繕いでさえも、なんだかその状況を助長させる感じがして閥が悪いなと思う。
しかし、自分がクレイモアであることには変わりはない。
傷ついた目を自分がすることは間違っていると思った、だから何も感じていない表情をした。
「それに、傷はもう治ってるから。」
「おいおいおいおいおい、何だ何だお前、」
羨ましいな。
そんな感想を言ってのけたハボックは、目の前のに何の恐怖も抱いていないようだった。
それに少し嬉しいと感じてしまったは、まだ自分がクレイモアだということを気にせずにはいられないという事実なのだろう。
たまらず苦笑した。
「で、ガラテアは?」
「彼女がこれをあなたにって。」
ホークアイが、床に転げたままのをそっと抱き起こしながらポケットのなかにあるピアスを渡した。
その銀灰色のピアスを見たロイは、ハッと思い出したようにを見た。
「そういえば、の二つ名が決まったと封書が来ていた。」
皮肉なものだなとロイは笑う。
そこに書かれていた言葉は、銀灰。
彼女が逃れようとしているその現実が、二つ名となっていた。
「銀灰の、錬金術師だそうだ。」
意外にも、はすっきりしたかのような笑みをうかべているのが目に入る。
彼女も小さな変化があったのだろうか、そんな推測とともに笑みを返した。
渡された封書の銀灰の文字と、掌におさまった銀灰のピアスを交互に見てはまた笑った。
「ご迷惑、おかけしました。」
その視線をこちらに向けては、深々と頭を下げる。
「ガラテア、怒ってました?・・・よね。」
「そうね、無茶をするなと言っていたわ。」
項垂れた頭をわしゃっと撫でたのはホークアイ。
ガラテアという人物のあの笑みを思い出して、そうせずにはいられなかった。
まるで妹のようなそんな感覚を覚える。
「いつも、いつも、いつも、暴走しちゃう私はガラテア無しには大変でした。」
クレイモアなど必要ないこの世界では私の実力は破格のものだけれど、あの時代ではナンバーにすら入らなかった。
ナンバースリーのガラテアを心底尊敬していたし、慕っていた。
物思いに浸りながら、は懐かしそうな瞳をしてそう語り始めた。
「暴走ぎりぎりのラインの中では最強と言われたんですが、それでもその力を制御しきれなくて。」
ナンバー47中の46位でした、ずっと。
完璧な彼女の意外な欠点に一同は目を見開いて、そしてナンバー10以上の実力をおもうと遠い目をするしかなかった。
そんな視線の意味がわかったはまた笑う。
そしてその話題から強引にそらそうと、ひとつ手をぽんと叩いた。
「あ、アルは?」
「呼んだ?。」
丁度よく部屋へとやってきたのか、はたまた彼の気配を感じて先にそう促したのかは定かではない。
けれどそれはすぐにアルの包帯をまいた姿に意識がいった。
「あ、アルだ。」
ほわ、と綻んだ笑みを浮かべたはアルフォンスに駆け寄った。
ぺたりぺたりとその包帯に触れて首を傾げた彼女を見ていたホークアイが思い出したようにアルへ言う。
「危ないわよこんなところにひとりできたら!アルフォンス君も狙われているのよ?」
「ああ、それならホムンクルスの気配がわかる人が上で見張っているから大丈夫です。」
ホムンクルスの気配がわかる人間…?そんな疑問が浮かんだけれど、ホムンクルスという幻の存在が現実にいることや、
クレイモアという伝説が目の前にあること、信じないわけがない。
「それに、私も居るから大丈夫。何かあったら逃がすくらいの力はまだあります。」
「」
特になんの深い意味もなく言った言葉だったけれど、ロイが神妙な顔をしてこちらを向いていた。
「」
続くようにホークアイが眉間に皺を寄せて立っていて。
「お前なぁ…ったく、」
少し呆れたようなハボックが苦笑して手招きをするからそちらへと歩み寄れば、いっそ小気味よくはたかれた。
「アル、私なにかいけないことしたっけ?」
真顔で彼に聞いてみると、アルフォンスからも溜息が漏れた。
完全に空気が読めない人間と化している自分に焦ってきたは、わたわたと慌て始める。
「え、なに?」
「・・・はぁ。」
「、あなたねぇ…」
「まだわかんねーのか?」
「、みんなね、」
がしゃりがしゃりと音をたてながら近づいてきたアルはの頭をそっと触った。
不器用にしかできないけれど、それは彼女にもいえることで。
「もっと、頼ってって思ってるんだよ。」
思っても居ない言葉には一瞬表情を凍らせ、仕舞には笑い出した。
何がおかしいのかと視線を向ければ、片手で制してちょっと待ってという仕草をする。
「あまり言われたことがなかったから、何か衝動的に笑いしかおきなくて。」
「お前、失礼極まりないな。」
「えー、ハボックには言われたくない。」
笑みを浮かべながら、あくまで笑っているとみせかけながら、
この動揺をどれだけ隠せているかという焦りが浮かぶ。
正直、ベッドから転げ落ちた時点で既におかしかったのだ。
そんな自分は自分でない。
ガラテアが生きていただと?そんなこと…。
他にも存在するということではないのだろうか…、それは敵としてという可能性も含め。
守りきれるか?
ヒューズと約束したじゃないか、。
自分へといいきかせてみたけれど、嫌な汗が次から次へと出てくる。
「」
まるで驚かされでもしたような勢いで振り返ってしまった自分に後悔した。
落ち着け、落ち着け、心の中で何度も唱えてみるけれど、どくどくと嫌に心臓が早い。
「なに?ロイ。」
少し驚いたような顔をされて、やっと気づく。
私は普段、皆の前でロイなどと呼ばない、呼んだこともない。
「・・・いや、大丈夫ならいい。」
ふっと優しく目を細めて笑みを浮かべたロイ。
笑ってなどいない、それくらいわかる。その瞳はこちらを探る視線。
しかしロイの大丈夫という言葉と笑みに周りは勘繰るのをやめたようだった。
小さく、誰にも聞こえないように細く長く息を吐いたつもりだったのだけれど、やはりロイは気づいているようだ。
「アル、何か話しに来たんでしょ?私ちょっと散歩してくるね。」
その場を逃げる最高の言い訳を吐いて、私は廊下へと出る。
背中に感じた視線は間違いなくロイのもので、思わず苦笑した。
どうしてこう、読まれてしまうのだろう。
漏らした苦笑いは誰にも見られることはなく、は静かな廊下の窓枠に脚をかける。
「・・・と、そーだ。上いこう、上。」
脚をかけた窓枠から離れ、非常階段を使って屋上へと続く道を登る。
呆気なかった、10段のぼるかのぼらないか、正確には上っていない気がするのだが、
息がきれている。情けないなと自嘲して、重い足腰に鞭をうち再び上り始める。
「落ちぶれたもんだな、って言ってたな、ガラテア…。」
確かに、これじゃダメだなと笑った。
彼女は何故ここら辺にいたというのだろうか、通りかかっただけというのは本当か?
今は深く考えたところで答えはでない、諦めてひとつ息を吸った。
「オ前…」
器用にポールへと立ち微動だにしない少女がこちらを見下ろした。
屋上の扉をあけると、すぐに彼女の真下。
「あなた、この前の?」
「オ前、大丈夫だったカ?」
普段の私の黒装束より幾分か重ためなものを身に纏った彼女の声質からしてまだ10代だろう。
小さな頃から鍛錬を重ねてきたんだなというのがひしひしと伝わってきた。
「ホムンクルス、居ないよね。」
「居ナイ」
端的な応答をする彼女の言葉はどこか外国なまりで、その成りからしてシンだろうなと思った。
行ったことはないけれど、こんななまりをする人に何十年か前に出会ったことがある。
「オ前、名前ハ?」
「。あなたは?」
「ランファン。」
特に隠す必要もないと思ったので、隣に立つポールにトンと軽く乗った。
「よろしくね、ランファン。」
それに少し驚いたような顔をしてみせつつも、私のなかに潜むもうひとつの気に気づいていたランファンは特になにかを聞くことはしなかった。
ただ少し、悲しそうな視線を感じた。
だからそっと笑い返した、そうするしかなかったから。
「人を守るのって、大変よね。」
ぽつりと呟いたのその表情までは見えなかったけれど、彼女が負の感情をもっていることはわかる。
しかし、特に言葉がみつからなかった。
黙って見つめるランファンに、は困ったように笑った。
笑うことでしか、全てに蓋をすることなんてできなかったのかもしれない。
アトガキ
もやもやーっとしてます。私も。