妖魔と生涯を共にしてきたようなものだ、いざ無くなるかもしれないと思うと妙に不安に感じたりもする。
目の前の打開策に少しも戸惑いがないかと言われれば、その答えはノーだ。

「・・・やってみるか?」
いつになく真剣な表情で、エドはそう言った。それを見つめるアルもどこか神妙な顔をして見ている。
なんだか重苦しい雰囲気になってきた今、それをどう打開するかを考えてしまっている私は些か不謹慎だろうか。
「それより、この子がエドの幼馴染のロックベルさん?」
「あっ、すみません挨拶もせずに!ウィンリー・ロックベルです。」
「可愛い女の子ね。どっちかの恋人?」
ブフーーーーー。
豪快にエドは飲んでいた紅茶を噴出し、アルはその無残な状況となった紅茶と床を見て溜息を吐いていた。
ウィンリーはというと、まさかという表情で笑っている。
エド、素直すぎるね。
内心の感想はここではそっと仕舞っておこうと軽く笑って、ウィンリーに手を差し出す。
「よろしくね。国家錬金術師の・です。」
「は?とったのか?」
「うん、この前とったのよ。言ってなかったわね、ごめん。」
私がエドと話をするのをどこか不思議そうにみているウィンリーにひとつ首を傾げると、
惚けていた彼女はぶんぶんと首を横に振ってすみませんと謝った。
「いや、若そうに見えたのに中身はすごく落ち着いた大人に見えたんで…、つい見とれてました。」
「正解だウィンリー、こいつの年齢聞いたらぶったまげるぞ。」
「ちょっと兄さん、に失礼だよいくらなんでも423歳だなんて老婆すぎるじゃないかせっかく隠してるのに。」
「アルフォンス、ちょっとこっち来なさい?」
言いながらも逃げの体制にはいっているアルを逃がすまいと捕まえにかかるけれど、するりとかわされる。
あんなに大きな図体なのに、動きは意外と素早かったりするのだ。
「私、人間じゃないのよ。」
「あ、そーなんですか。」
軽っ。
あっさりと受け入れられた真実に肩透かしをくらったような気分だった。
けれど、さすがエドとアルの幼馴染だなと実感する。確か二人にも同じような反応をされたことがあるのだ。
「で、話を戻すが。」
「わざと逸らしたってわかってんの?」
「わかってる。んなままじゃ進まねーだろ?。」
逃れられない科白と、真剣な視線で私の逃げの一手はふさがれてしまったらしい。
いくらでも逃げようがあったけれど、それ以上は逃げる気にはなれなかった。
「でも、人体錬成の通行料として妖魔の部分を持っていってもらうっていうのはリスクが多すぎない?」
「まぁな、俺はあまり進めない。ただ大佐が、」
「大佐が?」
「・・・頭下げられたんだよ、必死になって。」
もう失うのは御免だって、言ってた。
ぼそりぼそりと言いにくそうに言うもんだから、はたまらず笑ってしまう。
ロイもエドも、そしてアルも、どうしてこんなにも優しすぎるんだろう。
いつか自分を犠牲にする前に、守らなければ。そう決意した。
「・・・そうね、理論だけ学ばせてもらってもいいかしら?時がきたら、使わせてもらう最終手段にとっておいてもいい?」
「ああ、あんま無茶すんなよ。」
「、はいこれ。」
アルはいつだって気が回る、ペンと紙をどこからかとってきて私に差し出してくれた。
それにお礼をいって、再びエドと向かい合い彼に人体錬成の構築の概要を聞く。
錬金術の話になると没頭してしまう彼らをウィンリーはソファーに座りながらぼんやりと眺めていた。
しかし今日は珍しく、アルは参加していない。
「アルはいいの?」
「ああ、これは兄さんじゃないと・・・ね。」
「そっか。」
短い会話を終えて、再び沈黙が走るかと思われた。
しかしそれはウィンリーの言葉によってかき消される。
「さん、可愛いね。」
「うん。」
「すごく細くて小さい。」
「でも、はすごく強いんだよ。」
「それでも、ねぇアル。女の子なんだよ。」
守ってあげてね、意味ありげな視線の意図はつかめないけれど、
ウィンリーは彼女なりに何かを感じ取ったのだろう。
には、いつも儚さが漂っているから。
消えないように、いなくならないように、守ってもらわなくてもしっかりと立っていられるように。
これ以上彼女に負担をかけることだけはしたくないと思う。
きっとは、そんなことくらいというだろうけれど、それくらいしかできないから。
彼女の中身を守るのは、別のヒトだから。
「アル?」
「・・・あ、ごめん考え事してた。」
「電話、マスタング大佐からだって。」
ホテルの内線にも気づかないほどのことを考えていたなんて笑われてしまいそうだ。
自分のなかを占めるの領域に苦笑しながら、彼女を守れる唯一のヒトと電話をかわる。
「弟か。すまないがはいるか?」
「いますけど、兄さんと錬金術の話で白熱して声かけられません。」
「・・・白熱って。まぁあれも鋼のも好きだからなその手の話。」
「病気ですよ病気。」
「弟よ、どこか棘があるぞ。・・・まぁいい、私は明日退院するからと伝えておいてくれ。」
「まだ退院できるような傷じゃ・・・、わかりました。伝えておきます、すっかり治ったと。」
「すまないな。じゃ、急いでいるからこれで。」
がちゃりと一方的にきられた電話は、きっと彼の僅かばかしの抵抗だろう。
の声が聞けなかった、そんなちっぽけなこと。
けれどそれはとても大きなことなのだ。
なんだか、みんながに振り回されているなとアルは笑みを隠せない。
だって不思議と悪い感じはしないのだ、それどころか少し心地よささえ感じている。
目の前で繰り広げられる白熱したトークを面白そうに眺めながら、アルは彼らの喉を気遣い紅茶を入れなおしてやることにしたのだった。
「ありがとね、エド、アル、ウィンリー。私そろそろ帰らないと。」
広げた紙に殴り書きのような文字がつらつらと、それらをさっとまとめてトントンと机で整える。
帰り支度をはじめていると、うとうととしていたウィンリーがばっと立ち上がった。
「帰っちゃうんですか?泊まっていきませんか?」
「ってお前の部屋俺が払ってやってんだぞ、勝手に、」
「ダメなの?」
「・・・・・・どうぞ。」
完全に尻にしかれているエドに笑っていると、くるりとこちらを振り向くウィンリー。
その仕草で纏めた髪が可愛らしく跳ねる。
「ね、ダメですか?私さんとお話したい。」
「そういえば大佐から電話があったよ。明日退院するからって、傷はもう大丈夫だってさ。」
アルは断る理由なんてないでしょと笑いながらそう言った。
ロイの傷が完治しているわけはないし、それは彼とアルの気遣いだということくらいわかっているのだが…。
「こいつと話、してやってくれよ。俺らといるとどうしても女との関わりってあんまなくて退屈してるだろうし…。」
断る理由もなくなったし、久しぶりに話に花をさかせるというのも楽しそうだ。
は悪戯っ子のような笑みをうかべて「いいよ、徹夜でも。」と言いながら持っていた鞄を下へ下ろす。
それを見たウィンリーは嬉しそうに手をあわせ、私の鞄を持って部屋へと案内してくれた。
なんだか可愛らしい妹ができた気分だなと、後姿を眺めながらそうひとり思ったりして。
てきぱきと出されたお茶を啜りながら、既に真っ暗になった窓の外を眺める。
あまりお菓子というか食べ物自体をとらない体質だったけれど、自然とお茶菓子にも手を伸ばす。
お茶にお菓子に女の話、なんだか人間じみたことをしている自分が滑稽だけれど、
そんな自分が好きだった。
「さん、甘いもの苦手でした?」
「・・・あぁ、ごめんごめん。大丈夫だから気にしないで。」
無意識に甘みの少ないお茶菓子ばかりを選んでいた私に、少し心配そうに尋ねるウィンリー。
食べ物自体が苦手だと言えばもっと気をつかわせそうだから、伏せておくことにした。
「何か、リザさんと対称的ですよね。」
「・・・そう?」
「髪の色も金と銀って感じだし、瞳の色も、それに髪もさんはウェーブかかってるし。」
「そういわれればそうかもしれないわね。でも中身は比較的、」
「似てますよね。何だかすごくクールな感じが素敵です。」
うっ・・・、きらきらしてる。眩しい。
羨望の眼差しを一身にうけてたじりとするというのも見ものだけれど、ここには生憎二人しかいない。
「でも、意外と小心者だし仕事大嫌いでさぼっては中尉に怒られてを繰り返してたし…。」
「意外と自然体というか、思うが侭に生きてるんですね。」
「ははは、まぁ戦うことしか能がないからね。お茶も淹れれないよ。」
一瞬まじで引かれた気がしたけれど、あえて気にしないふりをしておこう。
「でも、人間じゃないからね。」
「それでも私、嫌いじゃないですよ。」
直感ですけどね、とウィンリーは優しく微笑んだ。
初対面だけれど、嫌というほどエドとアルから話を聞いていただけはある。
初めてな気はしなかったし、それはお互いにそうだったようだ。
「それよりウィンリー、ほんとにどっちかの彼女じゃないの?」
「ええ、ちっちゃい時に振ってやりました。自分より背の低い男は嫌だって。」
その時のエドの衝撃を想像すると、笑いをこらえられるわけもない。
目を細めて笑う私に、彼女も自然と笑いを漏らす。
目の前の彼女を見る限り、戦闘能力は皆無に近いだろう。ぱっと見てざっと判断をするこの癖も、どうにかならないものだろうか。
特に上腕筋が発達しているようにもみえないし、すらりと伸びるその両脚も運動能力に長けているといったわけではなさそうだ。
この幼馴染を、彼らはいつも大事そうに大事そうに話す。
そして私は、彼らの大事にして守っている彼女を、全てひっくるめて守るのだ。
「さんは、恋人いるんですか?」
・・・それを聞くか。一瞬固まって嫌な笑みをうかべた私を見逃すわけもなく、ウィンリーは問いただす。
「あ、いるんだ。え、マスタングさん?」
「いやぁー・・・、恋人だなんて呼べないよね。ほんと、なんなんだろう。え、こっちが聞きたいっつ話で、え、なに?ほんとなに。」
その名前を聞けば、自然と思考も混乱してきてしまって自分が何を口走っているかさえ曖昧だ。
困ったように笑う私に、彼女は突然真剣な表情をした。
「好きなら好き!嫌いなら嫌い!どっち?!」
「えぇー・・・」
「どっちなの!」
「いや、好きだけど。」
それってそこまで重要なの?
まるで小学生のやりとりみたいだなと若干圧倒されていたは、ウィンリーが納得したかのように微笑んだのを見る。
「だったらちゃんと、好きだって伝えないとだめだよ。」
好きだと、私が?ロイに言えと?
「身の危険を感じるから無理。」
若干その時を想像して遠い目をしたへ、相槌をうつように笑った彼女はまたしても真面目な顔をした。
「言わなくてもわかってるかもしれない、お互いに。でも、」
いつでも伝えられるとは限らないんだよ。
悲しそうに、そう言ったウィンリーにあの幼馴染たちから聞いた彼女の両親の話を思い出す。
「そうね。ならウィンリーもよ?」
「え?」
「私は、素直で可愛いウィンリーが大好きよ。」
「ー…。」
嬉しい、と抱きついてきた彼女の頭を撫でて、そっと抱きしめる。
本当に細いなと思った、戦いを知らないそれ。そして、知って欲しくないと思うそれ。
どうか彼女にだけは、誰の手も及びませんようにと信じぬ神に祈りを捧げた。
それから、彼女が知りたいといったから自分の身の上話をしてやった。
あまり語ったことのない話をするのに抵抗があるかとおもったけれど、意外にも抵抗はなかった。
それはきっと彼女があるがままを受け止めてくれる心をもっているからだろう。
数時間、お互いに色々な話をしているうちに気づけば同じベットで寄り添うように寝ていた。
静かに寝息をたてるウィンリーにそっと掌をのせ、どうか彼女に誰の手も及びませんようにと、再び祈るのだった。
アトガキ
ウィンリー、出てなかったっけ?