ぼんやりとした頭が辛うじて聞き取った言葉は、大総統がホムンクルスだというネタで揺するといった内容。

 

へぇ、と再び眠りに落ちようとして、飛び起きた。

 

 

 

 

 

何故自分が車内で寝ているのかわからない、瞳を閉じたまま途切れた記憶を手繰り寄せる。

エンヴィーを探して見つけたところまでは思い出した、それから・・・

 

「あ、飛び降りたら事故ったんだっけ…」

 

馬と正面衝突、よくぞ無傷で。

後頭部が少し痛むが切り傷擦り傷ひとつない、きっとエンヴィーが慌ててどうにかしてくれたんだろう。

つくづく馬鹿だな、私…。

 

車外でなにやら会話を終えたらしいロイとホークアイ。

彼女は敬礼してロイを見送った。

 

 

 

 

・・・いや、まずいだろ。

 

 

『大総統ってホムンクルスなんすかー?』

『ハッハッハ、そうだよマスタングくん〜☆』

 

・・・とは絶対にいかない。

何だか本当に厄介なことになったなと頭をかかえて瞳を開くと二つの瞳と目が合った。

・・・・・・目が合った?

 

 

「おはよう」

「・・・おはようございます。」

 

車内で横になったまま百面相をしているを窓から面白そうに眺め居ていたホークアイ。

すごい寝顔だったわよという彼女の言葉をそのままとれば、寝ていたとおもわれているらしい。

それはソレで問題だが。

 

「ロイは?」

「大佐は上層部に。」

 

・・・生きて帰ってくるか?

暢気にそんなことを考える余裕があるのは、きっと彼が殺されないと確信しているから。

しかし、彼の出方にもよるだろう。

 

 

「・・・ちょっと、御手洗いに行ってきます。」

「了解、戻ってきたら私と代わってもらってもいいかしら?」

「・・・・・・・・・戻ってこれないかも。」

 

肩をすくめたに、ホークアイは少し目を丸くしたかと思うと苦笑する。

 

「大佐と同じこと言うのね。」

 

そういえばロイも同じようなことを言っているのを聞いた気がする。

ぼんやりとした頭での記憶なので曖昧だけれど、彼も私もよく似た言い回しをするようだからきっとあっているのだろう。

 

「はぁー・・・王子奪還にいってまいります。」

「苦労かけます。」

 

ひとつ敬礼をして、は荘厳と建つ軍部を見据えた。

今、正確に言えば軍人ではない。軍の狗ではあるけれど。

入り口で憲兵に銀時計を翳して、彼らの居るであろう最上階へと向かう。

 

状況がわからないけれど、あまり良い状況ではないはずだ。

とりあえず、いつものようにあの狸どもとお茶でもしようじゃないか。

化かしあいの始まりだ。

狸と狐はどちらが強いだろう?

 

 

「流石に聞こえないわ。」

 

身の丈より遥かに大きな扉を前に、ひとつ溜息をついた。

聞き耳でもたてようかと思ったけれど、それはこの人間離れした耳でも無理なようだ。

 

はぁ、と溜息を吐いたまま大きく息を吸う。

左手で反対の腕を軽く掴み、ノックを2回した。

 

・・・・・・・・・・・・・。

 

今度は少し強めに、3回。

 

 

・・・・・・・・・・・・・。

 

右手を握り、大きく振りかぶる。

 

 

 

 

 

ドゴォオオオオン・・・。

 

破壊された扉からは粉塵が舞い、中にいた将校の狸どもがこちらを唖然として見ている。

何だかそんな光景もおもしろいなと思っては絶世の笑みを浮かべてこう言った。

 

「おじさんあたしとお茶しない?」

 

とりあえず破壊活動への謝罪はない、というかそう言いながらも錬成陣を描いて扉を修復し終えていた。

のそんな奇怪な行動に一同嫌な汗をかいているのを承知で、にこりと微笑んだ。

 

「うちの軍師がお邪魔してないかしら?」

 

彼らはクレイモアという畏怖の存在を承知しており、敵わないということくらいわかっている。

微笑むことが一番の恐怖心を煽るのだ。

こくりとひとつ頷いた男を遮るかのように、奥から大総統がカツリと音を立てて出てくるのを視線だけ動かして見遣る。

 

 

「返してもらえないかな?」

「まぁ待て、お茶でもしないか?」

 

断るという選択肢はなさそうだ、まぁ喉も渇いていたところだしいいかと安易に首を縦にひとつ振った。

すると奥の部屋へと招かれる、あの部屋だ。

私がいつも返り血を浴びたままお茶を啜っていたあの、部屋。

 

そこへロイがひとり座っていた、振り返り苦笑する彼に私もまた苦笑を漏らす。

 

 

「お迎えにあがりました、大佐。」

「すまない。」

 

出されたお茶をそのまま渇きを訴える喉に流し込む。

ロイの隣の椅子へはあえて座らず、部屋の片隅にたってカップを覗き込む。

違和感を覚えた、くらりと、目眩がして。

 

それでも寸でのところで脚を突っ張りひとつ大きく息を吸う。

 

 

 

「何をいれたの?信用して飲んだのに、ひどいね。」

「やはり、お前には効かぬか。」

 

くくっと笑うブラッドレイはちっとも悔しそうには見えない、むしろ安堵したかのようなそれにはああと納得がいく。

プライドの指示だなと、ここには姿はないけれど見張っているのだろう。

 

「効かないわけじゃない、すごい眠い。」

「人間なら即死だ。」

「寝たら永眠しそうだわね…、ロイそのときは骨はハヤテ号にでもやって。」

「おいおい、まだ死なれちゃ困るぞ。」

「ずいぶんとお気に入りのようじゃないか?マスタング大佐よ。」

は可愛いですからね。」

「そうそう、あたし可愛いから。」

 

茶化した物言いをする彼らに大総統は苦笑するしかなく、はそれをじっと見て考える。

ロイを殺すつもりはまだないようだが、私を処分する気はあるようだ。

じゃなければ、毒入り茶など飲ませはしないだろう。

 

それにしても眠い、体がひどく熱い。

内部が薬物に抵抗でもしているのだろうか、やたら疲労感があるのだ。

 

「で、私を殺したいの?」

 

気だるい体と重い頭を動かすのはやめて、直球でそう問いかける。

大総統はにこりと笑った、肯定か。

 

「まぁそうそう死なないから暇な子たちは遊んであげるからおいでって言っといてよラスト。」

「余裕だな。」

「あら、あなた私に勝てる?」

 

その腰に下げている剣だけで私に勝てるかしら? 答えは否。

それをわかっている大総統は、ただ苦笑しただけだった。

 

「そろそろロイを帰してもらってもいいかしら?」

「まぁ待て、もう一人客が来る予定なのでな。」

「客?」

「・・・・・・卑劣な真似ばかりねあなたたちって。」

 

ロイが問う答えは何となく予想ができた、きっとエドワード。

人質をとって脅すというのが彼らの常套手段だ。

私もそのうちの一人なのだろう、ロイをはじめ彼の部下全てが人質になっていることくらいわかっている。

とことん卑劣だ。

 

 

・・・・・・・・・あ、なんか私の中の少ない正義感が反乱を起こしそうだぞ、よし、起こしてしまえ。

 

卑劣には卑劣で対抗しようと、心中誓ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく待ってもエドは現れない、痺れをきらしたようにはつかつかと扉の方向へ歩いていこうとした。

すると抜刀の微かな音が耳に入る、背後を振り返った。

 

「何のつもり?」

 

ロイの首元にあてられた切先を見て、反射のようにぶわっと殺気立つ。

無表情に笑いを含まない瞳、彼女が怒っているという証拠だ。

 

「そう怒るな、賭けをしないか?」

 

ロイの表情を見ると、少し額に汗が見える。

ラストの殺気との殺気が犇くこの室内で正常な神経を保っていられるだけ彼は優秀だ、うっすら笑みすら浮かべている。

 

「その賭けにこちらのメリットはあるの?」

 

すっと起った気を抑えて、相手の様子を伺うことにしたは背の大剣を床にからんと落とす。

その賭けに乗ろうという合図でもあった。

そんな仕草に満足したかのように、大総統はさっと辺りを見渡した。

プライドの存在だろう、恐らく今ここの近辺にはいない。

 

 

声をワントーン低くして、ラストは笑ってこう言った。

 

「勝負は一回、こちらが勝てばマスタング大佐は首が飛ぶ。」

 

・・・おっかない。

 

「そちらが勝てば、私個人として君の助力をしよう。」

 

面白いなと、単純にそう思った。キング・ブラッドレイという男は私への裏切り行為はしないだろう。

それは彼に少し人間の部分があり、そこを共有しているかのようなだ。

悪くは無いと思った。ラストとしてあの組織で動きながらも、個人的に逃がすことなどしてくれるというのだ。

 

「大佐、どうしますか?」

「中佐はこんなにも優秀で美麗な私を見捨てるような人間には見えないが。」

「それはさておき、」

 

さておいた。あっさりと。

ショックを隠しきれない表情をしたロイをあえて無視しては話を進める。

 

「どう賭けるの?」

 

の問いに彼は至ってシンプルにこう答えた。

彼の首が飛ぶより前に私を抑えろと。

この距離と彼自身が人間ではないことを考慮するなら、断るべきだろう。

だが私の人知を超えた聴力は聞き取っていた、この機を好転させる旋律を。

 

 

「OK、うけてたつわ。」

「なら話は早い、」

 

 

 

「レディー…」

 

2・・・1・・・

 

「Go!!」

バァァン・・・

 

開始の言葉とほぼ同時に開いた扉に一瞬気を奪われたのは大総統、キングブラッドレイ。

その瞬間を見逃すではなかった。

僅かにあった間合いを一気に詰めロイの首元に触れた切先をふたつの指で挟みこむ。

 

 

密かにかいていた汗を拭いながら、は振り返る。

 

 

 

 

「や、エド。」

「・・・邪魔だったか俺?」

 

溜息をついた大総統に、はにんまりと笑みをつくる。

勝負は始めから決まっていたのだ、ロイと一緒にいるとどうも負ける気も死ぬ気もしない。

 

「約束は守ってもらうよ。」

 

ふふっと笑いながら、はひらひらと手を振り部屋を去る。

もう誰も止めるものなどいなかったし、エドが来たことで私への興味は少し削げたらしい。

これは好機だといわんばかりに大総統の執務室を去った。

そしてその足で、ある部屋へと向かう。

 

 

誰も立ち入ることの無い、あの返り血だらけの部屋へと。

まるで何かに誘われるように、自然と足が向いていた。

 

 

 

 

 

 

アトガキ

ロイの活躍率が極めて低い。ごめんなさいー!!!