一歩後ずさり、思わず息を呑んでしまったのは目の前がひどく赤に染まっていたから。
それだけではない、そこに佇んでいた一人の女に私は言葉を失った。

「誰?」
彼女は振り返ってそう言った、私は出来る限り妖力を押さえて他人のふりをする。
他人のふりを・・・、したところで出来ようもない。
目の前に居たのは私、。
正確に言えば私はここにいるので私ではない。
ならば、これは何だ? これは誰だ?
「誰?」
目の前の女は再びそう言った、あまり生気を感じない声で。
私と姿かたちが同じだということにすら疑問を抱かない彼女に違和感を覚えた。
何だというのか。
「もう次の仕事?」
生気の無い瞳は、まるで私のようだけれど私ではない。
しかし私はこの光景とこの科白に覚えがあった、これは過去の私。
返り血で真紅に染まった、過去の私。
「ねえ、あなたのこと殺してもいい?」
何も写さない瞳で彼女はそう言った、明確な殺意を私へと向けて。
彼女が私なら、私はあのときの男か?
何も写さない瞳で彼女は口を開いた、私はその言葉に狼狽して部屋を飛び出す。
どうやって駆け抜けたかなんて覚えていない。
「どうかしたの?」
気づくとホークアイが目の前に立っていた、蒼白な顔をしていたはそこで我に帰る。
誤魔化すかのように苦笑してなにも言わないはいつものことなので、ホークアイもそれ以上聞こうという真似はしなかった。
「大丈夫、ちょっと疲れてるだけだから。」
そう付け加えて、ね?と彼女を宥めるのもいつものことだ。
咄嗟に逃げてきたあの返り血だらけの部屋を出来るだけ思い出さないように、は青く晴れた空を見上げた。
思い出さないように、思い出さないように・・・、そんなことができるわけない。
あの日、 あの男、 一面の赤、 鉄臭い匂い。
フラッシュバックのように、次々と私の瞳のなかに現れては消えるそれ。
そのなかの一面、 腹から臓器を出され血みどろになり倒れる男の記憶。
「 」
頬にちりっとした痛みが走る、視線を落とすと漆黒の瞳と目が合った。
眉間に皺を寄せるロイの右手は平手を打ったまま静止している。
「大佐、パワハラです。」
「言うことはそれだけか?」
伸びた手はの唇をなぞる、そのまま人差し指を彼女の目の前に立てた。
そこには血が僅かに付いていて、自分が唇をかみ締めていたことに気づいたのだった。
「何かあっただろう?」
「それよりも、あれ」
それよりもという言葉で片付ける気などさらさらなかったロイだが、人事部の人間がホークアイに近づくのを見てかけて行く。
嫌な予感はしていた、私もロイも。
嫌なことは重なるもので、そのロイの後姿をぼうっと見つめながら軍部の上層階を見る。
ラストが、笑っていた。
惚ける頭を叩き起こして、目の前で愕然としている彼らに駆け寄る。
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたもあるか・・・。」
「、私大総督府大総統補佐官へ異動ですって。」
なっ、と抗議の声を上げながらも先ほどの位置へ視線をうつしたが、もうそこにラストの姿はなかった。
今ならビームとか出して射殺せそうな気がした。
私への拘束は緩めるけれど、周りにまでそうはいかないらしい。
ロイの司令室へと戻ると、全員が異動の通達を受けていた。
「容赦ないわね。」
ぽつりとが呟いたその科白に、皆は苦笑を漏らすだけだった。
それほどまでに軍から警戒されているということだこの面子は。
「とりあえず、ファルマン准尉は北でしょう?」
「ええ、北のことも知ってるのか?」
「あー・・・・・・、まぁ行けばわかるよ。少将によろしくね。撲殺されないようにね。逆らわないようにね。平和にね、平和に。」
ちょっと遠くに視線を向けて捲くし立てれば、ロイがくくっと笑った。
彼もまたオリヴィエに面識があるらしい。
「フュリーとブレダはとりあえずは大丈夫だよ。時期を見て必要となればロイが収集でもかけるかもしれないから…」
ちらりとロイを見た。
特に何も付け加えることはないということだろう、相槌が返る。
「その時は私が深夜突然暗闇から気配もなく現れるから、よろしく。」
「怖ぇよ。」
「大丈夫、怖くないようにメイドさんの格好でもしていってあげるから。」
「余計怖ぇ!!」
そう、なによりも一番心配なのは彼らではない。
視線をホークアイへ移すと、彼女も同じような表情をしていた。
「そんなに中尉の心配をしなくても、彼女は私の有能な部下だよ。」
とホークアイは互いに顔を見合わせため息をひとつ吐く。
「私が居なくなったら大佐は仕事をさぼってばかりでしょうね、と心配してるんです。まったく・・・」
「中尉が居なくなったらただの無能じゃないですか。無能。」
一応、階級は下の部下である。
そんなやりとりで笑いが生まれた中でもは神経を研ぎ澄ましていた。
誰も気づいていない、ここにプライドが潜んでいるなど。
よくもまあ、のこのこと偵察にこれるものだと思う。私は気づいていないふりをして笑った。
影の中から、嘲笑うような声がきこえてきたかのようだった。
なるべく唇をかみ締めないように、気づいていないと装ってはまた笑う。
お別れ会などしている暇はなかった。皆が机の上をばたばたと片していくのを私とロイはじっと見つめていた。
テーブルに腰掛け、コーヒーを飲みながらただただじっと見つめていた。
皆が去るという事実を突きつけられているのだとわかり、心細くなるのはいたしかたない。
「居るよ。」
隣にしか聞こえないボリュームで、小さく囁いた。
私はずっと、あなたの横であなたを守るよ、と。
「プロポーズか?」
「川でも見にいきますか。」
「かわ?」
「三途の。」
茶化したようにロイが言うから、便乗して言葉を返しながらコーヒーカップをテーブルにおく。
そのままぱたりと腕を下ろしただけだった。
そんな一瞬、ほんの一瞬、指先が触れる。
ぴくりとロイが動くのがわかったから、おかしくて笑ってしまった。
そんな私の態度が気に入らないのか、むっとした表情をしたロイはそれをにやりとした顔に変えると、
触れた指先ごと私の掌を攫ってしまった。
「・・・そんな顔するな、歯止めがきかなくなる。」
「その時は、歯止めがきくように私が仕向けるだけです。斬るとか貫くとかして。」
「死んでるだろ。」
ただ、嬉しくて笑ってしまっただけだったんだ。
掌が触れ合うことがこんなにも幸せなことだなんて、これが恋なんだって、自覚したけど不思議と嫌な気分はしなかった。
照れるとかそんなことよりも前に、単純に嬉しくて、は微笑んだ。
こんな笑い方も出来るんだな、とロイは強く掌を握りなおした。
テーブルで死角になるこの場所で、優しく強く、守るかのように握りなおしたのだった。
「大佐、顔がエロくないか?」
「嬉しそうな笑顔通り越して、エロいですね。」
「あのテーブルの下でのスカート弄ってんじゃねーだろな・・・。」
ズガン―――。
こんな状況においても、ここは平和なようだ。
エスカレートしてを触り始めていたロイは、あえなく銃弾によって沈没したのだった。
もちろんはそんなホークアイの行動も見越した上での待機だ。
アトガキ
漫画に追いつきそうだから、こっちだけ完結させてしまおうかなぁと思う今日この頃。
どうしよう…。