好きだとか、愛してるとかそんな陳腐な言葉では表せない、
この気持ちを何と呼ぼう。

「・・・なに?」
密室に二人、というかそもそもロイの自宅のため必然的に二人。
今までだってそうして暮らしてきていたはずなのに、何かが違うと感じるのは間違っているだろうか。
「なにも何も、心の通じ合った男女のすることなど決まっているだろう?」
「お金の貸し借り?」
「違うだろ!!」
こいつは今までどんな人生を送ってきたのかという視線を向けるロイ。
そんな視線に気づきながらも、何も気づかないフリを続ける。
どこまでが冗談でどこまでが本気かわからない、まぁそれはお互いに言えることだけど。
「私、お金なんて貸さないよ。」
「いらん!というか、まだ言うか。」
「え、じゃぁ借りてほしいの?もうロイったら新しい商売でも始める気?」
「は?」
「闇金かー…」
本人はあくまで冗談のつもりだが、見た目は至って本気に見える。
正直ロイは困った、まさかそんな行為を知らないとかいうわけではないだろうかと。
いやいや、私などよりずっと長く生きてきたがそんなことは…、目の前のは真剣に財布を取り出している。
ああ、神様。
私は人選を誤ったのでしょうか。
「誤ったんじゃない?」
「何故聞こえる!」
「口に出してたよロイ。」
完全にのペースになっていることに気づいてひとつ咳払いをする。
するとの肩がぴくりと動いたのをロイは見逃さない。
多少強引でも頷かせればいいかと思い、を強引に引き寄せた。
が、するりとかわされ手元には何も残らない。
「そんなに簡単に捕まえられると思ったらダメですよ。」
・・・こうなれば手段などかまってられるかと憤る思考は、若干犯罪に足を踏み入れている。
若干というか、完全に強姦罪で捕まる。
強姦で吊るし上げられて将来を棒に振るとなれば、牢獄に見物客が集まりそうだなと想像して乾いた笑みを浮かべた。
「何笑ってんの?諦めたんですか?」
「いや、強姦罪で牢獄に入れられたらギャラリーがすごいだろうなと思って。」
「私も混ざって指差して笑っときますよ、ハボックと。」
想像だけでもかなり屈辱的だった。
対するは、想像だけで口を押さえて笑いを堪えている。
何だか本気で人選を誤った気がしてきた。
「シャワー借りますね。」
「なら返してくれ、君の体で。」
諦めが若干付いてきていたから、茶化すつもりで言っただけの言葉。
「 いい ですよ 」
逃げるように去っていく、今何て言った。
小さな声で、本当に小さな声で返した返事に心が躍るのを抑えきれない。
男ってほんと馬鹿だわと思っているなど露知らず。
こんなにそわそわと女性のシャワーを待ったことなど、正直ない。
近所のお姉さんへの初めての淡い恋心みたいだなとロイは自分に笑った。
何度も言うが、がそんなに甘くないということをすっかり忘れているのだこの男。
ガチャリと扉が開き、肩にスポーツタオルをかけたが現れる。
「ありがとうございました。」
ぽたりと落ちる雫は、彼女が頭上で纏めている髪の毛から。
纏められた髪によって首筋は露わになり、項が視界へ入った。
ああ、目に悪い、わかってやっているのだろうか。
「どうも。」
「で、体で返せばいいんですよね。」
「・・・?」
にこりと微笑んだが瞬時、ありえないスピードで体の内側に滑り込んできてその右手は拳。
あたぁーー、間抜けな掛け声とは裏腹に人間離れしたスピードで鳩尾をトンと殴った。
ゴホっ・・・。
「秘技、恩を仇で返す。」
「・・・っのやろ。」
咳き込むだけですんだのはもちろん彼女が手を抜いているからだ。
面白そうに笑うを見ていると、怒る気力もなくなってきた。
「あははははははは・・・・・・・・・・・・はぁ。」
「なんだ?」
「したくないです。」
「そんな露骨に拒まれたのは人生初だ。」
「やったね、私がロイの初めてのひと・・・・・・・・・・・って、ひとじゃないかぁ・・・。」
ああ、の引っかかっているのはそこかと納得がいった。
別にそんなこと、ロイは気にしてなどいないのに。
目の前のという命を、ただ抱きしめたいだけだ。
「」
「いやです」
「何も言ってないじゃないか」
「名前を呼ばれるのも嫌。」
「」
「いやですってば。」
「こっちを向きなさい、」
「いや。」
「!」
強引に顎を持ちこちらを向かせた。
それに少し驚いたような表情をした、しかしそれよりも驚いたのはロイの目の前に映る彼女の瞳に溜まった大粒の涙。
今にも零れ落ちそうな、大粒の涙。
「すまない」
その涙の意図を聞く前に、もう止まる気もしない。
大粒の雫は今、扇情的なものにしか意味をなさなかった。
ああ、歯止めがきかない。
貪るかのような口付けを、彼女の意思なんてお構い無しにしてやった。
ドン・・・
「やっ!!」
スローモーションのように、彼女が自分を突き飛ばしているのが見える。
そのヒトコマヒトコマのなかに、キラキラとした水滴が飛び散っていた。
ああ、泣かせてしまった。
後悔の責に苛まれたが、もう遅い。はぱたぱたと部屋を出て行こうとドアへ向かった。
「!!」
呼び止める声虚しく、掴もうと出した掌も空を切った。
ぱたんと扉が閉まり、冷たい空気が追い討ちをかけるかのようにロイを突き刺す。
あとがき
遅くなってごめんなさい。