かつり、かつり、いつも彼女が履いているそのヒールと同じ音が、
全く同じ音が背後から近づいてきた。
かつり、かつり、かつり、・・・かつ、

「大佐、」
聞き覚えのある副官だった彼女の声にも、振り返る気力は無い。
目の前の現実が、あまりにも残酷すぎて。
「大佐、」
聞こえたなじみのあるヒールの音は、ホークアイのものではないはずだからもう一人来客なのだろうけれど、
それに気づいてもなお振り返る気力はわかなかった。
おそらくこのくらいのタイミングでくるように、が呼んだのだろう、優秀な副官を。
「・・・まずいな。」
ぽつりと、背後にもうひとつある気配の声がした。
この声にも聞き覚えがある、確か、
「ガラテアさんが、この家の前に立っていたんで入れました。」
「禍々しい妖気を感じたのでな。」
跪いた体勢のまま、ロイは静かに振り返る。
そこには眉間に皺を寄せたホークアイと、無表情のガラテアが立っていた。
ひとつ息を吸って、ガラテアは口を開く。
「妖魔が、復活した。」
どうしてだろう、まるで冷たくなって動かないのことなどどうでもいいかのようなその言葉に、
正直腹が立った。
きりりと歯をかみ締める。
「討伐に行って来るので、後はまかせた。」
「言うことはそれだけか?」
だから思わず、敵わない相手に、喧嘩腰でものを言ってしまったのだと思う。
白い顔をしたから目が離せなかった。
少し瞠目したガラテアは、何がおかしいのかくすりと笑う。
「はそれを望んだのだろう?そして結果として妖魔が出て行った。ならば、良かったじゃないか。」
「ガラテアさん、もう少し補足を入れないとこの人は、」
「それでも死んだら意味なんて無いだろうっ!」
ホークアイの言葉を遮るように怒鳴ったロイの目の前。
ガラテアが手に持っていた空き缶のようなものを、ぶんっとへ投げつけた。
「行くぞ、馬鹿弟子。お前の能力なら妖力なしでもサポートくらいできるだろう。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・荒いなぁ、ロイみたいだよ人使いが…。」
死んだと思っていた、息をしていなかった、青い顔をしていた、失ったと思っていた、
そのが、苦笑いを浮かべながら瞳を開けて、口を開いた。
「…?」
「ごめんごめん、途中で意識は戻ったんだけど、すごい怒のオーラ出してるガラテアが恐ろしくて死んだふりしてた。」
けど、無理だったわと付け加えて、彼女はガラテアから投げられた大剣を難なく受け取る。
そして急に神妙な顔をして、ガラテアを見た。
「わかった?」
「ああ、ならあれは何だ?」
全くわからない頭上のやりとりにも今は口を挟むことをしない。
それだけ、深刻な表情を二人ともしていた。
口を挟まないロイとホークアイにもわかるように、は簡潔に説明するわねと言う。
「一つ、私は人体錬成をしていない。二つ、あれは恐らく覚醒者。三つ、覚醒者は私とは無関係。」
「つまり、人体練成をしようとしていたところに覚醒者が予期なくやってきてぼこぼこにされたと。」
「そう、ほんと意味わかんないから。殺すんじゃなくて殴ったのよ。意図がわからないわ。」
はあぁぁと、長い息が聞こえた。
ロイが床に座り込んで、頭を抱えているのが妙におかしかった。
とはいえ、今はそんなことも言っていられないからガラテアと目配せをして窓を開け放つ。
「お説教なら後で聞くから。」
ひらひらと手を振って、はふわりと外に飛び出した。
ガラテアはが降りたことを確認してから、後ろを振り返りもせず履き捨てるように言った。
「お前から離れるのが怖くて、死ぬ可能性を恐れて、錬成できなかったんだと思う。躊躇していたんだろう、きっと。」
生きている意味『人になり死ぬ』というその意味をまっとうするか、
今までのその意味すべてを捨ててロイの横に立つか。
人になるということにはリスクが多すぎて、ロイの横をとってしまったんだろうというニュアンスだった。
言い終わるか終わらないか、ガラテアもまたふわりと飛び立った。
「不器用な生き物だな、人間も半妖も。」
「だからこそ、面白いのではないですか?」
「・・・そうだな。」
「とりあえず大佐、もう朝ですのでさっさと部屋に行って、さっさと仕事してくださいね。」
「久々に会ったと思えばそれかい君は…」
「さっさと仕事してくださいね。」
「はい。」
死んだ魚のような瞳が、ひどく印象的だった。
まるで自分を映す鏡のようで。
生きることに固執するという、その人間染みた生き方も。
悪くは無いのかもしれない。
私は愛してしまったから。 彼は、欲してしまったから。
全てを捨ててでも、愛を選んでしまった。
どこに居たって、どこにも居なくったって、
私、あなたを愛してる。
あなただけ、あなただけが、私のすべて。
アトガキ
とりあえず、本編は完結ということで、・・・いいですか?
ハガレン自体に追いついてきちゃったからなぁ。
続きは短編や拍手で書いていこうと思います、ご愛読ありがとうございました。