寂しかったよ。すごく。

でも言えなかった、怖くて、怖くて。

喋ってしまえば泣きついてしまいそうで。

泣いてしまえば依存してしまいそうだったから、だから突き放していたのかな。

 

 

会いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

成都に到着すると、どこからともなく横に馬が並んだ。

さらりとした黒髪をひとつに括り、凛とした空気がよく似合う彼を知っていた。

こちらから口をだしてもいいのか、しばし悩んだが、困ったような笑顔を向けてくる彼に私も苦笑した。

 

 

「これは、趙将軍」

 

言葉はなくとも不思議と居心地は良い相手ではあるが、挨拶だけはしておこうと思う。

 

「大変だっただろう、殿」

 

まぁねといわんばかりの笑みを返すと、またもや苦笑が返ってきた。

五虎と称されるひとり、趙子龍こと趙雲。

戦場で幾度となく目にしたし、戦ってきた相手でもある。

すると背後からまたひとつ気配を感じた。

 

溜息をひとつ吐きながら、ここは戦場か?と聞きたくなる。

に対峙しているときはいつも側にこの気配があった。そして彼もまた、猛将である。

 

「私こんなに警戒されてんの?」

「さぁな、俺は丁重に連れてこいと言われただけだ」

 

振り返って馬超にあからさまに嫌な顔をする。

彼とも幾度も戦ってきて、同盟を組んだときなどはぐちぐちと上官の人使いの荒さを語りあった。

ある意味では気心知れた仲といえる二人に囲まれて登城する。

 

「明日には戦へ出ることになった」

「それはまた、先を急ぎますねぇ」

 

さて、私は誰の副将になるのやら、と思って回廊を歩いていると突然髪を引っ張られた。

・・・・・・・痛。

 

「星彩・・・いたい」

もばかね」

 

久々に会って早々、馬鹿呼ばわりされた。

無表情の星彩の言葉の裏を知っているアユからすれば嬉しいことこの上ないのだが。

 

「はいはい、ばかですよ」

「戻れなくなっても知らないから」

 

さらっと流せば痛い所を突いてくる。

心配してくれてるのだろうことはわかるが、意外とシビアな女の子だと気づいたのは数ヶ月前。

それでも不思議と年も近いからか会えば会話を交わした。

例え敵であったとしても、一言二言はなにか言い合った。

だからこそ、心配してくれているのもすぐにわかった。

 

「戻れなくなったら私の副将にしてあげるから」

「こき使われそう…」

 

ふふっと笑みをこぼして「そこまで落ち込んでなさそうで安心したわ」と言い残し去っていった。

は敵国であった蜀からも、高く評価されていたし、異国から来たということももはや隠すまでもなく知れ渡ってしまっていた。

しかし、もう二年近く経つ上、さまざまな戦で皆と遭遇して言葉をかわすうちに、好いていく。

情がわいてしまって、討たなければならない時にもさっと逃がしたりする彼女を、弱いと評すものもいるが、優しすぎると蜀の面々はとらえていた。

 

は、戦を好いてはいなかった。

それは彼女の戦い方をみれば一目瞭然で、はじめはそれをふざけていると思っていた面々も、彼女と対峙した際の顔を見て、自然と考えを変えていった。

 

 

「これはこれは、面白い御方がいらっしゃるねぇ」

 

庭園にある大きな岩に腰掛けてが通るのを待っていたのはホウ統で、丁度向かいの廊下から歩いてきた黄忠もに気づく。

これは絶対偶然ではないと、わかってはいたがとりあえず笑っておくだけにした。

横の趙雲がそんなを見て「貴女を歓迎しているのですよ皆」と微笑んだ。

しばらく回廊を歩くと、そこには猛将と呼ばれる面々や軍師でありを呼びつけた諸葛亮、そして劉備が既に集まっていた。

 

「よう、お前も気の毒な奴だな」

 

かっかっかと張飛が笑うと、関羽が軽く小突き、なんだか深刻な状況であるはずなのに笑えた。

それを見ていた劉備が息をなでおろすのが見えて、やっぱり殿はお人好しすぎるとまた笑った。

 

「早速ではありますが、お疲れのところ申し訳ありません」

「いえいえ、すっごい疲れてますけどどうぞ」

 

諸葛亮にこんなにも悪態をつく人間はそうそう居ないと劉備はいつも笑っていた。

戦場でも揚げ足をとるように言葉を返すを見て、場違いな笑いをあげる劉備が好きだった。

しばらく朗らかな雰囲気を堪能して、区切りがついたのか一瞬で真剣な眼差しになる。

 

 

 

「さて諸葛亮よ、ざっと説明してやってくれ」

 

 

その一言でずいっと前に出た軍師によって、簡単に軍議が始まった。

 

彼の策は見事なものだった、敵陣の偵察や看破が得意な私からしても、最もな策だと思う。

だが足りない。このままでは勝てない、それも同時にわかってしまう。

 

そんなの表情を見たのか、諸葛亮は苦笑する。

 

「大丈夫ですよ、まだ秘策はとってありますから」

 

彼の秘策ほど怖いものはないと思う。何度も痛い目をみてきた。

確かに彼はものすごくキレるが、今回ばかりは少し不安も残った。

は表情に陰りを残したまま部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一か八か、無理かもしれないとは思ったが、援軍要請の使いを出してみようか・・・。

彼には一度だけ貸しを作ったことがある。

そこまで親切に約束を守るとは到底思えないのであまり期待はしないでおく。

 

 

 

 

 

 

 

 

夜もふけて明日は出陣だというのに、私の不安は拭えずにいた。

魏には既に蜀への寝返りは伝わっている。

私を狙うなら蜀へくるのが妥当だろうが、彼らがそんなにも単純にのってくるとも思えなかった。

遅かれ早かれ、魏は呉に攻め入るだろう。

それまでには、蜀と呉の同盟を組めればいい、しかし、それまでに攻め入られた場合は…。

 

 

 

そこまで考えて、襖の外に気配を感じた。

 

、いいか?」

「はい」

 

すぐに返事をして部屋へ招き入れる。

こんな夜半に異性を部屋にいれるのはあまりよろしくはないだろうが、やってきたのは劉備だった。

彼の表情にもと似た陰りがあり、思わず苦笑する。

 

「呉ですか?」

「やはりか」

 

は彼が話をしやすいように、先に思案を口にした。きっと劉備も同じことを考えている。

 

「私がここに来たことで、こちらに集中してくるならばそれはそれで兵力差」

「うむ、軍師殿の策でかなりの差を縮められるとは思うが、こちらの負傷兵もかなりの人数になると思われる」

「でも呉の今の状態を考えれば、攻め入るなら今と魏も考えていると思う」

「そうだ」

 

しばし沈黙が流れた。お互いに思案をし、ああでもないこうでもないとやっていると、部屋の外に突如矢文が飛んできた。

また矢かよ。もういいよ。

そう思いながらも、文に手を伸ばす。

 

 

自然と笑みが零れた。

 

いける。

 

 

 

 

 

そう直感した。  私の勘は八割正しい。

 

 

 

 

アトガキ

いまだ方向性が定まりません。