素直じゃないとよく言われたけれど、私はこの世界で誰かと繋がるのが怖かった。

あの世界での私が消えてしまうのではないかと思って。

大切なものを置いてきた。

 

元気にしていますか?

 

会いたくて、会いたくて、狂ってしまいそうです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界に来たのは本当に突然で、私は私の背中を鋭利なものが突き刺さっているのをどこか冷静に見ていた。

見えるはずはない、そう気づいたのは後のことで。

背後が見えるというのは、どこか不思議なもので、気がついたら私は私から抜け出ていた。

そこにいる私は、腕のなかを必死に守っていて、どうかそれだけは守れますようにと、祈った。

 

死んだのかなと思ってはみるが、そこに居た私はまだ動いていて。

背中を刺したと思われる人物を見ようと目をこらしたが、すぐそこにいるはずなのにモザイクがかかったように見えない。

 

 

誰、誰が私を刺したの。

私の大切なものを奪わないで。

 

目の前の私がもう一度悲鳴をあげた。それから、何度も何度も、悲鳴をあげていた。

靄のかかったその人が、何度も何度も執拗に刺していて。

やめてやめてと叫ぶが、私は声がでなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫌な夢、不吉すぎる」

まだ夜があけきらない刻、嫌な夢をみて、嫌な汗を大量にかいて、飛び起きた。

不幸中の幸いというべきなのか、叫び声はださずにすんで、そこで気づく。

私の手を握りながら、大丈夫だよと言わんばかりの優しい笑みを浮かべるその人に。

 

「星彩」

「ごめんね、魘されてるみたいだったから来てしまったわ」

 

どんな夢をみたのかなんて無粋なことはきかない。

そんな彼女が好きだった。

星彩にしても、尚香にしても、そっと背中越しに座っていてくれるような存在だった。

 

「もう起きるわ、ちょっと鍛錬付き合ってくれない?」

 

どうにか話題を変えて、そうお願いをしてみると首をすくめられて。

どうしたのと視線だけで伺うと、父上と諸葛亮殿に呼ばれているの。とだけ答えて去っていった。

クールだなぁなんて自分のことは棚にあげて言ってみれば「くーる?」と振り返ったので「さらっとしてるってことよ」と付け加えた。

 

「おせっかいついでに小耳に挟んだことを教えとくけど、呉の軍師殿が使いをよこしてきたわよ」

 

内容まではわからないけどと言い残して今度こそ本当に去っていった。

もう蜀軍の魏への侵攻は伝わっているだろうし、彼も策を練ってはいるのだろう。

どう動くかまではわからなかったので、気にしないように。

それでも、気になってしまう頭を振り切るだめに鍛錬場へ向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅い」

 

遅いだなんていわれる時間じゃないはずだが、そこには既に馬超、趙雲、関羽、魏延が居て、そこそこの緊張感も漂っていた。

蜀を代表する武将陣がこんなにも緊張しているのかと思うと、私がここにきたのが間違いだったと思ってしまう。

それを察したのだろう、意外な人物が口を出す。

 

「我、オ前…助ケル、 我、強イ、オ前・・・何モ、考エルナ」

 

魏延は見た目とは裏腹にいつだって優しかった。

口数が少ないだけ、相手の心情には敏感だったし、意外と情に厚いという面を持っていた。

それに続くように趙雲が「私達はそんなに頼りないか?」と苦笑して、頭をくしゃくしゃと撫でられた。

 

馬超がの肩に腕を伸ばしてきて「勝ったら一晩付き合えよ」なんて言うもんだから、笑ってしまった。

「馬超と寝るくらいなら趙雲殿と華燭の典あげる」とさらりとかわせば、趙雲が「殿はいらないよ」と優しく微笑んだ。

今更だろうとは思うが今回は趙雲の副将として戦うことになったので、部下としての礼儀を尽くしたまでだったのだが。

 

殿、あまり深く考えるでありませんぞ」

 

関羽が背中をぽんと押して、暖かいことを言うもんだから、柄にもなく泣きそうになった。

振り払うように、武器を手にする。

 

 

そして一瞬で空気を静寂なものに変えてしまう。

 

 

「それにしてものその戦い方は実に、面白い」

 

熱くなる武将は多々いるが、は冷静を通り越して静寂さを纏ってしまう。

 

「こいつ戦う気あんのかって、初めて遭遇したとき思っちまったし」

 

趙雲と馬超が、から距離をとるようにして身構えた。

生憎としか言い用がないが、の所持していた武器は閃飛燕。

きっと彼は怒っているかな、そう思うと笑う場面ではないはずなのに思わず笑みが零れる。

これくらい、いいでしょ。

 

 

「きなさい」

 

待てど暮らせどかかってこない馬超と趙雲にしびれをきらしそうだった。

思わず命令口調で言ってしまう私はいらっときているのかもしれない。

 

「本当にいつも受身だなお前」

「楽だから」

 

あっさり楽だからなどと言ってしまったに関羽がとうとう笑い出した。

お前らではまだ敵わぬぞと二人に告げ、彼自身も戦闘態勢をとった。

魏延は傍観に徹しているのかただ突っ立ってこちらを見ている。

 

「魏延はこないの?」

 

そう余所見をして言ったが最後、不意打ちとばかりに三人が一斉攻撃をしかけてきた。

その切先の残像をみながら素早くすり抜けてみせるが、不満は、ある。

 

「卑怯者」

 

じとっとした目で三人を見遣ると揃って素知らぬ顔をされる。

実際の戦で不意打ちだから卑怯だなんて通用しないのはわかってはいるが、鍛錬中なはず。

いやー、卑怯。

 

「これくらいせぬと我らに勝機はないと、そう判断したにすぎぬよ」

は動きが異様に早いから」

「一晩つき合わさせるためならなんだってあり?」

 

口々に述べる言葉を最後まで聞かずに地を蹴った。

それはものすごいスピードで、動きの鈍い関羽から馬超、そして趙雲へと次々鞘打ちをする。

そこで終わるはずだった。

馬超までを沈ませた直後に背後に気配を感じて勘だけで飛び去った。

 

「来タ」

 

来ないの?と聞いたのはであって、魏延は悪くもないし、本人に全く悪気はなさそうなのでなにもいえない。

それを見ていた馬超が腹をかかえて笑い出し「いまかよ」とか言っている。

 

 

空気が柔らかなものに変わっていた、やっぱり、こっちが好きだ。

 

 

戦は嫌い。

 

そんな言葉を吐こうものなら反感をかうこともあるだろうから、あまり口にすることはないけれど。

みんな、守るものがあって戦っているんだといわれたことがある。

 

 

 

それでも誰かが傷つくのはみたくなかった。

だから、戦うという選択肢を選んだもまた、守るために戦う一人だと気づいていたから。

 

 

 

 

 

「召集だ、行くよ

 

空を見上げたまま固まってしまった彼女を宥めるように肩に手をかける趙雲。

何だってお見通しだ。

お父さんみたいだなぁ、なんて不覚にも思ってしまう。

そして更に不覚にも声に出ていて「父は嫌です」と笑われた。

背後で馬超が「親父だって親父」とこれまた腹をかかえて笑っていて「これから戦というのは嘘ではないか」と疑ってしまうような暢気さだった。

 

 

 

 

 

 

 

澄み渡る空色が、どこか遠くどんよりとしていることにはまだ気づけなかった。

 

 

 

 

 

アトガキ

まだです、まだ方向性が。