疲れませんか?そんな生き方をして。
いつか陸遜に言われた言葉が胸に突き刺さって抜けない。
彼と同じことを言わないで。
無意識のうちに『違う、違う』とレッテルを張ってしまっていたのはひょっとしたら、私かもしれない。
5
「伝令!敵に援軍、旗は…」
何故気づかなかったんだろう。
突如戦場と化したそこへ現れたのは、聞き間違えようもない声で。
そちらへと目をやれば、視線をそらされた。
彼らの旗には『陸』の文字。
「っ…」
「引くぞ」
彼が裏切りという行為を許すとも思えなかったし、これは好機といえば好機だ。
敵の援軍としてやってきたのは陸遜をはじめ、怪我の少ない孫策や凌統、甘寧、周瑜だった。
着々と勢力をつけていく蜀を打ち破るには、魏が全力で戦いを挑む今回が好機であるということ。
蜀と手を組んで守りに徹するよりも、魏と共々蜀をつぶしてしまったほうが早い。
そこに裏切り者がいれば尚、切り捨ててしまいたいと思うのが将の性ではないのだろうか。
呉を守るために逃げた私は、 呉に追いやられていた。
樊城の戦い、魏と呉は同盟を組んでいた。
確か、そんなシナリオだった。
ゲーム通りにはいっていないからと安心していた二年、今回がまさかそのとおりにいくなんて思っても居なくて。
誰にも助言などしなかった。
だってまさか、そうなるなんて思っていなくて。
「っ」
趙雲の声は耳に届いていた。
しかし、あえて聞こえないふりをし続けた。
様子を見たい、ただそう思ってそこへ立ち続けた。
「変だ、」
私が一言そう漏らすと、何がと聞き返す趙雲。
しかしきっと彼も気づいている。
「本気で手を出してないよ」
「彼もためらっているのではないのか?」
さあ、と強引に抱え上げられるようにして一旦引き下がらされる。
「趙雲、なにか隠してる?」
変なのは趙雲も一緒だった。
全く焦った様子もかんじないし、なんだか知っていたような…。
「私は何もいえない」
そういえば星彩も言っていたじゃないか、使いが着ていたと。
それならばこちらへの援軍が妥当だが…。
わけがわからない。
もうどうでもいいや、倒そ倒そ。
曹操に挑みにいっちゃお。
何かがのなかで弾けとんだ。
わからないならば、体力勝負。
変なところで螺子が飛ぶをよくしっていた陸遜は、彼女の表情の変化に遠目ながら気づいた。
「厄介ですね」
彼が頭をかかえていたとは知らない。
は引き止める趙雲に軽く峯打ちをしてさらっとすり抜けた。
「っ、どこに」
「気にいらない、みんなで何隠してんのかしらないけど、呉はどっちなの」
騎馬に乗り上げて最後にそう乱暴にたずねる。
そんなことを聞きたいわけじゃなかった。
それくらいここまでくればわかっている、呉はそのうち反旗を翻してくるだろう。
そんなことじゃなくて、そんなことではなくて・・・
それくらい魏だって気づく。
ここを去らなければ。
いち早く立ち去って、単騎駆けをしないと。
来てしまう。ここだけに。
みんなが、やられてしまう。
魏の全軍がここだけに全武将を集めているという報が届いたのは、が馬を駆け出した直後だった。
狙いが私なら、いくらでもくればいい。
ただ周りだけは巻き込まないで、お願いだから。
私から奪うのだけはやめて。
「来た」
奪わないで、奪わないで。
「着いてきなさい」
お願い、私ならいくらだって傷つけていいから。
曹操率いる軍団を一人で引き付ける。
の単騎駆けは実に見事としかいいようがなかった。
しかし殺生を嫌う彼女も今回はそんなことも言っていられないと判断したのかに群がる兵士たちは瞬く間になぎ倒されていく。
弓兵を徹底的に狙って全滅させ、賢そうな馬を巧みに操り駆けて行くその姿に殺すのは惜しいと躊躇ったのは曹丕。
しかし曹操はそれを一枚上回っていて、彼女が思い通りに動くとはおもっていなかった。
それは同時に恐怖の存在となってしまう。
「殺せ」
果たして全員が殺そうと思ったかは定かではないし、生け捕りにしようとした武将もいるのだろう。
は数人の隙を見つけては潰していった。
しかし殺すほどの致命傷は与えず、利き腕ばかりを狙うその手法に「ほう」と漏らしたのは司馬懿で、それをしっかりと聞いていたのはであった。
僅かな余裕も、一瞬の隙を生み出す。
確実に利き腕ばかりを狙っていたの動きがぴたりと止まった。
「四面楚歌?」
まさにそんな言葉がぴったりだとは思ったが、思わぬ言葉に出鼻をくじかれる。
「七面楚歌」
曹操、曹丕、司馬懿、典韋、許チョ、夏侯惇、張遼。
あまり勝ち抜けそうな気はしなかった。
正直、体力もあまりない。
そんなことはわかっているのだろうし、だったらここで討ってくれてかまわない。
副将以下はもうほとんどがによって動ける状態ではないだろう。
蜀や呉まで攻め入られる心配はない。
民兵などは放置してあるが、ここまでしておけば戦意も萎えるだろう。
一介の兵士も、きっとそれくらいなら呉や蜀でなんとかなる。
なんだか、本当にもうどうでもよくなった。
そうこうしていると、夏侯淵、甄姫、徐晃・・・、嗚呼、無理だ流石にこれ。
続々とやってくるその気配に諦めもつきはじめるが、二つの異なる気配を感じた。
まさか、
まさかね。
突如飛んできたそれを右手でしっかりと掴み取ると、それを改めて実感した。
「方天画戟、か?」
取り囲んでいた曹丕がそう発すると同時、は見るも疑うような速さで輪をすり抜けた。
勝機が、 やってきた。
「待たせたな」
「待ちくたびれました」
呂布の登場に、少なからず皆驚きを隠せないでいるようだった。
自身、まさか本当に来てくれるとは思っていなかったくらいな上、彼の横には何故か左慈。
「待たせた侘びに、拾ってきた」
「小生もそなたをここで殺させるには惜しいと、判断したまでよ」
異様な組み合わせだが、そんなこともいっていられない。
曹操の天下統一を危険視していた左慈にとって、対抗勢力としても絶大な力を誇るを潰させるには惜しかった。
理由はなんだっていい、味方ならもってこいの二人である。
いける。
「好きなだけ暴れろ、不服ではあるが援護に徹する」
ニカっと笑った呂布にニヤりと笑い返して、戦慄の空気を纏う。
力が漲った感覚が掌から伝わる。嗚呼、久しぶりの感覚、無双乱舞のような。
背後の呂布からもバチバチと音が鳴りそうなほどの勢いを感じた。
「いきますっ」
戦いの始まりはのこの一言だけ、しかしそれだけで十分だった。
囲んでいる敵を蹴散らすには十分な暴れっぷりをするをみて、左慈も援護をしつつ笑みをもらす。
ちらと呂布を伺ってみれば目が合い、彼も笑っていた。
それほどに見事だった。
さすがにこれほどの武将が集っていると隙を突かれることもあるが、片手で軽く薙げばいい程度。
実際はわざと敵を溢していた、それも呂布達には気づいていたけれど、それはそれで笑いを誘う。
本人には言えないが、戦の申し子のようだった。
その場を鎮静させるはずだったのだが、戦の終焉ではなく一つの報によって事態は一変した。
アトガキ
これは全部書き終わったらゆっくり手直ししていこう。