「っつ…」

 

「あぁっ!ごめんなさい、本当に、ごめんなさい。」

 

 

 

 

 

嗚呼、また今日もこの地球上で新たな被害者が生まれた。

わざとお茶を溢しておいて、よくもそこまで悪びれているもんだとそう思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「中佐ー、何か仕事ないスか?俺終わったんでやりますよ。」

 

いつものように、騙されているロイの部下達。そんな彼らに可哀想な視線を送るが誰一人気づく人間などいない。

だって彼女は信頼が厚い、人望がありすぎる。

 

全くもって、納得いかない話である。

 

「ええ?いいの?ごめんなさいね。」

 

そう言って上目遣いに首を傾げながら「えへへ、もっとお仕事頑張って優秀な上司にならなきゃね」的なことを言ってのける。

私は知っている、彼女の仕事の的確さとそのスマートさ。

ホークアイ中尉をも凌ぐほどの力量であった。

 

が、それを知るのは私だけらしい。

 

 

 

全くもって、納得いかない話である。

 

 

 

 

「え、何か言った?ロイ?」

「何も言っていないよ、。」

 

くるりとこちらに振り返り可愛らしい声音でそう笑いかける彼女の瞳は今日もまた、全く喜の色など帯びていない。

恐ろしい女だ…。

 

 

 

「そういえば、そろそろ査定だって知ってたか?」

 

中尉の目を気にしながら、顔はあげずに手は動かし続けたまま、

近日締め切りのある、国家錬金術師の査定の話を持ち出した。

 

その瞬間、部屋の一角だけ時が止まったように凍りついたその気配を感じる。

そんな時は彼女の素である。

 

 

「っぁあああーーーー!」

「おいおい、・・・まさか、」

「・・・・・・・・・ロイ・・・様ぁ」

 

こういう時の態度の変わりようほどえらいものはない。

本当に、えらい変化の使用だなと笑った。

 

は完全に忘れていた、日々の女磨きと合コン三昧に頭が行き過ぎて。

一週間もない締め切りのことなど、全く頭の隅にもなかった。

 

 

 

「とりあえず、仕事終わりの合コンは全てキャンセルしろ。」

「え、」

「手伝って欲しいんだろう?」

「でも、今日と明日と明後日、ああ、明々後日も、無理矢理頼まれたお誘いで…」

 

嘘こけ。

 

「大佐ー、中佐が可哀相っすよ。」

「そうね、こんなに頑張っているのに。よっぽど大佐よりえらいわ。」

「大佐ならちょちょいっとどうにかならないんですかい?」

 

お前ら、これ以上こいつを甘やかせるな。

そう言いたい気持ちは気持ちで収まるだけで、声となり響くことはない。

目の前に立ちすくむの背中は「してやったり」という雰囲気に変わっていた。

 

姑息すぎる…。

 

 

、ちょっと来い。」

 

ここでは埒があかないと思ったロイは、を二人の使用する部屋へと引っ張っていこうとする。

だがそこまでも馬鹿ではない、しっかりとホークアイとハボックの軍服の裾を握っていた。

思わず溜息をつきそうになったけれど、彼女がちらりと振り返ったときの剣幕に溜息さえも飲み込んだ。

 

おっかない、ほんと、誰か頼むから気づいてくれ。

 

 

「嫌がってますよ中佐が。」

 

ホークアイがを守るように全く笑みを浮かべぬ表情でそう言った。

それは百歩譲っていいとしても、いちいち愛銃に手を滑らすのはやめて欲しい。

 

「嫌なんじゃないのっ、た…ただ、あの部屋に行ったら叩かれたりして怒られるし…」

 

 

 

待て、いつ誰がお前を叩いた。

 

異議申し立てをしたいところだが、瞳を潤ませて周りの同情を完全に獲得している彼女にロイの勝ち目はない。

本当に、世の中卑怯だとロイは舌を鳴らす。

 

鳴らして、瞳を潤ませている女の全く悲しんでもいない瞳と眼が合った。

 

舌を打つことさえ許されないのか…、そうか…。

 

 

「大佐、そんなことしてたんスか、ひどいっすよ女の子相手に。」

「私が一度大佐を教育しなおさないといけませんね、これで。」

 

滑らせていたそれに、完全に手をかけたホークアイ。

彼女は鷹の眼、ロックオンされた時点でこの世のおしまいだ、ジーザス。

もう査定だろうがなんだろうがやってやるから、これ以上危害を加えないでくれ…。

 

そんな視線を送ってみれば、僅かに微笑んだ。

いやあれは、唇の端を僅かにつりあげたといったほうがいいような笑みだった。

 

 

「だ、だめよっ。ここで中尉が何かしたら、あの部屋に行った後また叩かれるだけじゃなくてスカートの中から乱暴されちゃう。」

 

 

 

 

待て、いつそんなことをした。

いっそさせてくれていたなら三歩譲って許すけど。

 

 

大体お前だろう、いつも私を挑発してくるのは。

 

そんなことを考えるよりも、全身系で弾丸を避けることに神経を集中しなくては…、くる。

 

 

 

 

ズガガガガガガガガガガンッ・・・

 

 

 

「今日もいい腕してますね中佐、素敵です。」

「ありがとうございます中佐、でも大佐もいい避けっぷりでしたね。」

「あら、もっとスマートに避けて欲しいもんだわ。ね、ハボック?」

「中佐の言うことは全てっス。」

 

 

 

 

 

情けない格好で、身体のラインぎりぎりに打ち込まれた弾の焦げ付く匂いを嗅ぐ。

なんだか今この場に完全に居場所はない、諦めたように私室に逃げ込んだ。

 

この職場はどうかしている、というか完全にあの女に支配されている。

上司の権限というやつで飛ばしてやりたい、左遷だ左遷。

種子島へ流してやる。

 

「左遷すれば?できるもんなら。」

「盗み聞きか?だがその前にその無駄な口を縫い付けてやりたいよ。」

「え?何?」

「・・・・・・・なんでもないです。」

 

飛ばすなり、世間から抹殺するなり、なんだってできる自信はあるのに。

それでもなにもできない自分が一番情けない。

 

 

仕方ない、惚れた弱みだ。

 

 

「デート一回。」

 

こんな女に惚れて馬鹿だなと若干自嘲気味に笑っていたら、不意に口を開いた

その意図を汲みかねて、僅かに首を傾げる。

 

「だーかーら、デート一回。」

「してくれるのか?」

 

冗談のように返すと、至極あっさりとした返事が聞こえた。

 

「そうよ。」

「査定の代走でデート一回…、安いな。」

「相手はこのマドンナよ?」

「その鼻をへし折ってやりたいさ。」

「…言うわね今日は。」

「安い。もっと何か、」

 

 

残業一日交代とか、と続けるつもりだった言葉。

けれど、ふわりと目の前に影が出来る、だから何事かと口を閉じて視線を上げただけ。

たったそれだけのことだったはずなのに、柔らかな、

 

唇に柔らかな感触、

枝垂れた睫毛が僅かに揺れていた。

 

 

 

 

 

 

 

「あたしのキスは、高いわよ?」

 

 

 

不意打ちは卑怯だろ、そう反論するにもどうも頬が熱を持って顔を上げられない。

完全にのペースだと思った。

悔しいけれど、嫌じゃない。

 

完全に私の負けだなとロイは熱と共に息を吐いた。

 

 

 

 

目の前の女の顔が、今まで見たこともないほど熱っているとも知らず。

目の前の女の顔が、今にも泣きそうだとも知らず。

 

目の前の女の心臓が、まるで早鐘のように打っているとは露知らず。

 

 

 

 

 

 

 

彼と彼女の攻防戦。続く。

 

 

 

 

 

 

 

アトガキ

最近他の者に熱を浮かせて増田さんを怠っていました。

お詫びをこめて、必死に書き上げたけれど…つ、拙い、酷すぎる。

ごめんなさい、精進します。