愛してると何度ささやいても届かない、もう君は私のもとから旅立ってしまったから。
人を愛するということを教えてくれた君に、ありがとう。
君を愛せて、私は幸せだったよ。そして今も君を、愛してる......

「好きです。」
「・・・は?」
彼女は真顔でそう言った、俺は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていただろう。
それだけではない、周りの空気全てが凍りついたのを皆が感じていた。
その中で心身共に完全にフリーズしている人間がひとり、ロイ・マスタングだった。
「好きなんです、あなたのことが。」
「・・・・・・はぁああ?」
くらくらとしているのだろう、ロイは頭を押さえて今までの出来事を整理しているようだ。
その眉間による皺はどんどんと深くなり、数もかぞえきれないだろう。
当の本人であるは、目の前のハボックへと向けていた真剣な表情をころっと崩してこう言った。
「ってさっき言われたんだけど、どうしよう。」
「おい。大佐白くなってんぞ。」
「大佐、手を動かしてください、手を!」
今日も今日とてはマイペース街道絶好調、大爆進中である。
目の見えないのをいいことに、結構周りをかき回すのが趣味らしい。
「どうしようじゃないだろ馬鹿者!断れただちに!」
「えええーー、なんで?」
「馬鹿かお前は!」
「お前には私がいるだろうとか言わないでね、この勘違いエロリコン。」
「んな、謀反か?!謀反だな?」
「謀反だ!」
ああ、またはじまった。すごいどうでもいいことなのに、どうしてこうも大事に…。
溜息を吐いたハボックは、ホークアイが安全装置を外すのを横目で確認して書類に目を落とした。
あと数秒できっとこの部屋に鳴り響くのだろう、怒りの銃声が。
「あ、中尉中尉っ、今日あがり一緒ですよね?お買い物いきません?」
「・・・ショッピング?」
高々と上げられた拳銃の見えないが果たして空気だけで気づいたのかどうかはわからないが、発砲されるまえに制することに成功していた。
だがなんとなく、あれはきっと確信犯だと思うのだ。
「そうそう、ちょっと欲しいものがあって。」
ぴくりとロイが動いたのにホークアイは気づいた。
それをとりあえずは見てみぬふりをして、に笑顔でいいわよとOKをだしたのだった。
「買い物もひとりじゃ大変でしょう?」
「そうですねー…、すみませんご迷惑でしたか?」
「まさか。いつでも誘って?」
中規模なショッピングモールにやってきたはまず始めに案内板に指を滑らした。
そこには点字がうってあり、その文字はホークアイには解読不能だった。
自分に場所を聞けばいいのにと思うけれど、出来うる限りは自分で生活したいと思っているを知っていたから口は出さない。
彼女は自分で行きたい店を見つけては、ホークアイの手をひき連れて行くのだ。
とても、楽しそうに見えた。
「楽しい?」
「すっごく。」
即答で答えが帰ってくるあたり、本当に楽しいのだろう。
表情は生き生きとしていたけれど、ホークアイは少し胸が痛むのを感じた。
こうやって女友達と買い物に出かけることなどほとんどないと、示唆しているようなものだったから。
「次は何?」
「下着を新調したいなーって。」
「それなら隣のすぐ隣のお店ね、近くてよかったわ。」
そう言いの手を自ら繋いで歩き始める。
一瞬ぴくりと反応したに驚いたホークアイ、するとはくすくすと笑い始めた。
「中尉、手…つないだりするんだ。」
「…しないわね、基本的に。」
「私の目が見えないから?」
「…さぁ?」
それは違うと否定してあげてもよかったけれど、じゃあ何故と聞かれるのも恥ずかしかったので誤魔化した。
のことが特別な存在だからよ、なんていえそうにない。
また笑われてしまいそうだ、それは非常に苛々とするからやめておこう。
「今、七時過ぎくらいですか?」
「いや、八時近いわよ?」
「あぁあ、そろそろ行かないと。」
手に取ったブラを名残惜しそうに見つめるその瞳はなにもうつしていないと知っているけれど、その仕草は自然だ。
そして別にブラに名残惜しさを感じているわけでもないのだろうし。
ホークアイは、2枚のブラとショーツのセットをレジスタンスへと持っていく。
「ほぁ、中尉買ったんですか?」
「ええ、まぁね。」
レジの店員に、手振りだけで『包んで』と声に出さず指示したことをは知らない。
しばらくして、ぽんとの掌に感触があった。
それを指でなぞり、形や素材などを調べて何かを判断するに、ホークアイは目を細めて見守る。
「リボン?・・・・・・・・プレゼント?」
「ええ、帰って開けてみて。」
「・・・えええーーー!いいんですか?」
「似合うなと思ったから、買っちゃったわ。」
買っちゃったわって・・・とが呟くのを見てまた笑う。
本当にこの少女に弱いなとホークアイは、妹のように感じる彼女の頭にぽんと掌を置いた。
それに気づいたは、えへへと笑って「ありがとうございます。」と嬉しそうにそう言った。
二人並んでモールの出口へと向かう途中、欠伸を噛み殺している男を入り口の少し先に見たホークアイ。
すらりと伸びた四肢を黒いロングコートで覆って白い息を吐くその男は漆黒の髪色をしていて、見覚えが無いわけもない。
がぴくりと眉を跳ねさせて、溜息をひとつ吐くのをみて笑ってしまった。
「わかるの?」
「怒りのオーラを感じる…。」
「そうは見えないけど…、眠そうね。」
「帰って寝ればいいのに、本当に心配性だなぁ。」
面倒臭そうな言葉とは裏腹に、とても嬉しそうに笑みを噛み殺している。
どこか「仕方ないなぁ」といった雰囲気のに、ホークアイも笑うしかなかった。
自動ドアが開いた瞬間、息が一気に白くなる。
色なんてわからないけど、それでもきっとこれは白い色をしているのだろう。
「ロイ。」
「遅い。まったくお前は時間というものを守、」
「私が買い物をしていて遅れてしまったので、彼女に非はありません。すみませんでした。」
全く悪びれもせずに息継ぎもせず言いきるホークアイに、ロイは苦笑した。
それは本当かもしれないけれど、きっとを庇ってのものだろうから。
待ち合わせをしているわけでもないのに遅いと怒る自分に全く非が無いともおもえないし、とりあえずは肩をすくめるだけにしておいた。
「で、買い物は終わったのか?」
「ばっちり。ありがとうございました中尉。」
「いえいえ、また行きましょう。」
じゃね、と振り返りもせずすたすたと歩き出したホークアイにぶんぶんと手を振る。
振り返らないので見えないけれど、なんとなくわかってしまったので片手を挙げたホークアイだった。
不思議な二人だなと思う。
彼の横はいつだって自分だったはずなのに、気づけば彼女が居た。
彼女の名前は・、彼の幼馴染のようなものだと言う。
彼女の二つ名は旋律、旋律の錬金術師。しかし人々は彼女を小馬鹿にしたように、盲目の錬金術師と呼んだりもしているのを知った。
それでも精一杯生きている彼女を見て、彼の隣を奪われたことに嫌だという感情を抱いたことなど一度も無い。
そんなことよりも、彼女のその屈託のない笑みに癒されている自分がいた。
そして、彼女を傷つけるものから守りたいと、そう思うようになったのだ。
「ロイ、ひとついい?」
「何だ?」
「笑わないでね。」
「?・・・あぁ。」
あたし、ここに来てすっごく幸せ。
心の奥底から嬉しそうな嬉しそうな笑みを浮かべて言うの頬をそっと撫でた。
一人でセントラルに配置されていた頃、彼女の噂は耳にしていたし、それが酷すぎる話だということも。
ヒューズが全力で守ってはいたみたいだが、部署も全く違うので手が届かない部分が大半だったようだ。
「それに、ロイもあたしの側にいてくれるでしょう?」
「なんだ、嫌に素直だな。バッグ買って〜とか言う気じゃないだろうな?」
「失礼ね。」
「それより、告白された男にはちゃんと言ったのか?」
ああ、それまだ気にしてたんだとは笑う。
ロイが不快感を抱いていることくらい知っているけれど、ちょっとした復讐のつもりだっただけなのに。
だってロイはいつもいつも女の人から黄色い視線を浴びているから。
いつもいつも、プレゼントや告白ばかりで。
「なんか、すごい不快感。」
「なんだいきなり。」
心の中の気持ちをぶり返せば不快感でしかないけれど、突然言われてもロイは困るだけだ。
はロイに詰め寄り服をぐいっと掴み挙げる。
「なんだ?」
胸倉をつかんだような形になっているの手を振り解こうとしたけれど、一段と強く握り締められた拳がわなわなと震えていた。
殴られると感じてガードに徹しようとしたロイにおくられたのは拳でも平手でもなく、
「好きだよ、ロイ。」
頬にやんわりとした感触があったけれど、それが唇だとわかるまで数秒。
身構えていた自分が馬鹿みたいだ。
してやられたと笑うと、は笑いながら駆けていった。
それをのんびりと歩いて追いかけるロイは、彼女の足元に小さな窪地があることに気づいて声を・・・
ずしゃぁぁぁあああ・・・
・・・かける前に転げていた。
ロイの溜息と、の情けない悲鳴が暗闇に小さく響いている。
いつもの光景であって、特にお互い気にすることは無い。
彼女のすらりとのびた細い脚は、いつだってズボンやジーパンで包まれていた。
転げてもできるだけ痛くないように、という意味。
「痩せただろう?」
転げた彼女を抱き起こしたまま抱きかかえて歩き出したロイがそう言う。
は、軽く笑っただけだった。
痩せたのは事実だったけれど、心配はかけたくなかったから。
大丈夫だよと軽く笑う、ただそれだけだった。
「ろ、ろ、ろ・・・・・・ろーーー。」
帰宅して、一緒にご飯を食べて、食後のコーヒーを共に飲む。
いつものその光景の中に違った光を感じたは、じりじりと一歩一歩後ずさる。
「嫌いなのかこれ?」
「いやっ、そんなめっそうも御座いません。」
「いい好みをしているな、中尉も。」
ふむ、私の好みも考慮しているなこれはと独り言をいいつつも、こちらへと近づいてくるロイを感じる。
きっと面白そうに笑っているんだろうなと思うと無性に悔しくなってきたりした。
「っだーー、なんでここでつけないといけないのっ。」
「一番に見たいから。」
「なんてわがままなっ。」
ホークアイにプレゼントされた下着を開けて、手触りで形や飾りを確かめようとしたけれど色だけがわからなかった。
だからロイに、至って普通に「これ、何色?」と聞いただけだったのに。
気づけばじりじりとこんなにも追いやられている、まったくもって意味がわからない。
いや、わかるけれどわかりたくなんてない。
「緑。」
「へ?」
突然ロイがそう言ったから、間抜けな返答をした。
「淡い緑色。」
「ああ、それか。」
彼の掌に移ってしまったであろう下着を指差す。
「あとは、鮮やかな桃色。」
「・・・私、そんなイメージ?」
自分の中では、もっと違うイメージだった。
ロイはそう言うの額に指をあてて、目を細めて笑みを浮かべる。
「自然に溶け込むような淡いグリーンに、温かくなるような癒されるような、鮮やかな桃の色。」
「・・・・・・なんか、照れるね。」
「ちなみに私の色は何だ?」
しばらくは無言になったかとおもうと、かたんと首をかたむけた。
え、知らないの?と伺うような仕草のあと、飄々と言い放ったのだった。
「真っ黒。 どっこにも白さなんて無いね。」
へっへっへと笑うは既に逃げの体制を整えていて、きゃっきゃと笑いながらバスルームへと逃げ込んでいった。
途中数回壁にぶち当たりながらだが、器用に巻いてしまう。
こんな日がくるなんて、思っても居なかった。
この家に誰かと住むなんて考えたこともなかったし。
それがこの一ヶ月、たったそれだけでまるでずっと昔からそうであったかのように彼女はここに居る。
彼女はいつだって、まるで全てを包み込むように、ここに居るのだった。
アトガキ
第二段、どうでしょうか。ダメでしょうか。はい、すいません。